55.
小村さんが全然走れないという予想外の事が判明した為に、代替案を急遽考えなくてはならなくなったが、そう直ぐ思い浮かぶものでもなかった。
「千田さんこうなったら、私の事は置いて行って」
「喋る元気があるなら、黙って走れ」
「これはっぁ、まじめな、話しだぁ、よぉ」
息を切らしながら言われても全くもって、真面目な話しという感じがしないし、そもそも見捨てて戻るなんて事が出来る訳がない。
「小村さんの戦闘スタイルは?」
「み、てて」
小村さんが立ち止まり、後ろに振り返る。
振り返ると同時に曲げた肘を伸ばしながら、手首をスナップさせ何かを飛ばしたと思った次の瞬間、先頭のゴブリンが急に両目を抑えながら悶始め転び、後方のゴブリンどもが巻き添えで倒れた。
「何を投げたんですか?」
「針です」
「いやいや、針ってあんな真っ直ぐ飛ばないでしょ」
「だって飛んでるじゃん」
そう言われたらそうだが、一瞬で何を持ってるか認識出来ない程に小さい針なんて、軽いし指で挟みづらくて、どう考えても高難易度でしょ、それを普通に出来るって、ステータスがすごいのか、才能なのか分からないが、どちらにせよ凄い事だ。
「なら一人でも大丈夫か」
「えええぇぇ!言ってる事が違う!」
「だって、走れないなら俺達がとれる手段はこいつらの殲滅しかないぞ?」
「だったら、そうしてよ。私も頑張るか、らぁ」
既に走る事が限界に近い小村さんが倒れそうだった、倒れられるぐらいなら正面切って戦い、役に立ってもらった方が良いのかもしれないが、いっその事意識を失ってくれた方が楽だ。
「仕方ない、あの建物まで走れるか?」
「あれ?‥あれなら、何とか。がんばぁるぅ」
近場にあったマンションに駆け込み、階段を上がろうとする。
「おにぃさん、危険って、入るなってぇ、ある」
「ああ、大丈夫だから早く上がって」
小村さんが建物の入り口にある看板を目にして、声を絞り出すが上がる事を急がし、階段を数段上がると同時に、一階の天井に向かってマジックアローを放ち階段を上りづらくする。
「ちょっ、下りれなくなっちょうよ」
「下りれないのとゴブリンに殺されるのどっちが良いんだ」
「それは…あっ」
更に違う角度から俺が攻撃すると天井は一部が瓦礫と化し、階段の入り口を半分以上は塞ぎ込んだ。
「てかどんな威力してたら、壊れるのさ」
「天井が脆かったんだ、俺に出来たんだ鈴木さんも出来たと思うぞ」
そうは言うが全くの嘘であり、天井を壊す時に使用したマジックアローは、先程までゴブリンを倒してた時とは全く威力が違う。
「そうなんだ。てか私の扱いだけ何だが違うくないですか?」
「そんなに?」
「そうですよ、千田さんって妹さんとか居ます?」
「居ないけど」
「何だがおバカな妹みたいな扱いされてる気分なんですよね」
「おい、居ないけど、仮に居るとしたら妹を悪く言った事になるんだが」
「だから聞いたんです、居たら言ってません」
「ゴッ!」
「ギィイイ!!!」
「「「ガァギャガギャギャギャギャ」」」
俺達の後を追ってきたゴブリン達が、崩した階段の上り口に辿り着いた様で、瓦礫を叩いたり甲高い声が聞こえてきた。
「上に行きましょうか」
「そうだな」
余り音を立てないようにして俺達は4階まで上り、廊下を進む。
「屋上まで行かないんですか?」
「それこそ逃げ場が無い」
「ならどうするんですか」
「んっ」
頭だけで示すように首を動かし、小村さんに伝える。
「むりむりむりむりむりむりむり、絶対ムリです!死にます!落ちます、落ちて死にますってッ」
「いや、隣のマンションに跳び移るぐらい大丈夫だって、小村さんステータスで筋力は上がってるでしょ?」
「そりゃちょっとは上がってて、コーヒーの缶を潰せましたけど、それとこれは話が違いますって」
「じゃ先に行くね」
「まってッ」
「うわぁあッ。俺を殺す気か!」
俺が3m程先のマンションに跳び移ろうとした瞬間に、服を掴まれ危うく真っ逆さまの状態で落下する所だった。
「置いていかないで、ぐじゃさい」
「泣くなよ。それに俺が先に行って受け止めるから、思いっきり飛ぶだけだ」
「わたし、多分向こうまぇ、とどきましぇん」
「その場合も助けるから」
「みすてて、私だけ下におちるやつじゃぁないですかぁ~」
「そこは信用してくれ」
「・・・・・・」
視線が痛い。
「約束して下さい、絶対助けるって」
「約束するよ、早くしないとゴブリンが来るぞ」
「命に代えてもですか?」
「いや、そこまでしなくても助けられるって」
「私は命懸けて渡してるんですよぉッ、それなのに命懸けないって釣り合わないじゃないですかッ、それなら他に対等の何かを懸けてくださいよ!」
「お前を信用してやるよ」
「そんなのっ割に合わッ――」
≪契約を受理しました≫
「はぁ?」
「えっ…そんな、そんなのって、ないょぉおお」
突然頭に聞こえる声に理解出来ず混乱する俺は、既に泣いていた小村さんが今にも号泣しそうな状態に変わり始めたせいで、状況を理解出来ないまま、階段を上りきったゴブリンと目が合ったのだった。
「失礼」
「えっあッ、いっやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
小村さんを抱き抱え、遠心力を駆使して方向だけを正確に狙い、小村さんを隣のマンションの外階段に向かって放り投げた。
その直後、ふらつく事も許されないまま瞬時に後を追う様に飛び、放り投げられた小村さんと俺を受け止める様にマジックバリアを発動させる。
『「マジックバリア」』
斜めに傾斜をつけて発動したマジックバリアが滑り台の様な役割を果たし、俺と小村さんは無事とは言えない状態だが、隣のマンションの階段の踊り場にたどり着いたのだった。
「いたたたっ、最悪ですぅ..」
「生きてるんだ、文句言うでない」
「いや、死にましたよ、一回死にましたってあんなの、投げられた瞬間走馬燈的なの見えましたもん」
「際ですか。まぁちょっと待ってて」
「何を・・・?」
「両手で耳を塞いでぇ大きく口を開きましょ、あ~」
「え?あ~~」
「ピッ」
カバンから取り出した、スイッチを俺は躊躇わずに押した。
「ドンッ」
すると重くだけど甲高い様なずっしりとした爆発音が聞こえ、次の瞬間、心臓が止まるかと思う程の衝撃波が全身を襲った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます