54.


 望奈さんを入れて前衛が6人も居ると流石にやりやすく、俺と鈴木さんの二人は変わらず後ろから攻撃を繰り返していた、撃破数で言えば俺達二人で6人と比べてもいい勝負をしていると思っているぐらいだ。


「マジックアロー」


「千田さん今のでいくつに?」


「すまん、数えてない」


 俺が黙々と敵を狩っていると、鈴木さんが撃破数を聞いてくるのは既にこれが2回目であり、一回目は47と答えたから数えてると思われていたのだろうが、途中から数えるのを止めたのだ、結局は経験値が一律で揃ってる訳でもないなら数える事は命を奪う感覚を紛らわせるだけでしか無いのだ。


「僕がやっと61なので、千田さんは100は超えてそうですね」


「後100回繰り返せば、ようやく1万匹で10分の1って訳か」


「数えてた自分が悪いですね、すいません。」


「そんなに落ち込むな、気をしっかりもて」


「はぁぃ――」


「あっちに人が!」

「おい待てッ小村!」


 俺と鈴木さんの二人が後方で話しながら作業をしていると、突然小村さんが集団から離脱し走って行き、九藤さんが呼び止めるも小村さんが止まる事は無く、気づくと小村さんが通った筈の道はゴブリンによって塞がれていた。


「皆さんすいません連れ戻してきます」


「九藤さん待ってっ、自分が行くのでそのまま進んでてください」


「でも―」

「九藤さんよりは自分が行った方が、ゴブリンに対処出来ます」


「分かりました、あいつをお願いします」


「はい」


「気を付けてね」


「はい、望奈さんも」


 ゴブリンがまばらの場所を探し、アローで倒し道を広げ、バリアを発動させる気構えで俺はゴブリン達を無視し、全力で走った。


 数メートルも走り後ろを振り向けば、既に望奈さん達との間には緑色が密集しており、完全に分断された形となっていたが、俺が気にせずかなり奥に見える小村さんに向かって走り続ける。


「小村さん…」


 追い着き座り込む小村さんに話しかけながら、横にそれ小村さんの前方を見、目に移り込んだのは、全身の大小様々な切り傷や噛み傷が強調する様に衣類がボロボロになっている一人の女性の姿だった。


「この人…ついさっきまで、息をしてて、それなのに、私がッ、もうちょっと早く来てたらこの人は」


 少し遠くを見ればこの女性が倒したであろうゴブリンの死体が転がり、近くにある違った損傷が見られるゴブリンは小村さんが倒したのだろう、だからその一時の最後だったゴブリンをもっと早く倒せたらこの女性は助かったと言いたかったのだろう。


「助かったかもしれませんし、助からなかったかもしれません。けどその人からすれば最後に誰かが助けに来てくれた、それだけで十分なんじゃ、ないですか」


「そぅ、そうなのかもね、うん。って千田さん?」


「はい?」


「え、あっ、その、すいません」


「何について謝ってるんですか?」


「・・・・・・」


「黙秘ですか」


「だって色々あるもん。それに私の事変な人って思ってますよね、私も自分で思ってます、何やってるんだろって、気づいたら行動してるし、ころころ変わるし、ほんと私って何なんでそうね」


「それを聞かれても、まだ会って数時間の俺に答えられませんよ」


「そうだけど、何だかそんな気がしないんだよね」


「気のせいですよ」


「私はそんな気しないんだけどね」


「それはそれとして、そろそろピンチですね」

「だよねぇ~」


 お互いに目だけを動かしキョロキョロと周りを見渡し、同時に後ろを振り向いた。


「「「「「「「「「「「「「ギィィキッキキッキィー」」」」」」」」」」」」」


 振り返ると嘲笑ってるであろうゴブリンが、数え切れないほどに集まっており、来た道も無く、皆の姿も既に見えない状態だった。


「ブロッコリーワールドだね」


 隣で同じ光景を目にした小村さんが既に壊れ、訳の分からない事を言っているが行動しなくてはならず、半ば放心状態の小村さんの手を引っ張り走り出す。


「走ってッ」


「わぁっ、千田さんこっちは違う方向だよ」


「馬鹿正直にあの数を倒して元の場所に戻ろうってか?日が暮れるぞ」


「ならどうすんのさ」


「まぁ見とけ。マジックアロー」


 走りながら後方に手を向け、マジックアローを放つ。すると追いかけて来ていたゴブリンの集団は先頭が死に倒れた事で、最前列を起点にどんどんゴブリンが躓き、死んだゴブリンが居た縦列は足が止まり、一時的だが追いかけて来るゴブリンの数がかなり減った。


「これで体力が切れないペースで走り続け、ぐるっと回り皆と合流する」


「なるほど、でも、私、そんなに、はしれぇ、な、いぃ」


「ちょッ、え!?まだ100Mも走ってないしジョギングの速度ぐらいだよ!?ステータスどうなってんのさ」


 AGIにステータスを振っておらず既存の体力値で走っている、俺より走る事が出来ない人が居るなんて夢にも思ってなかった。それはAGIを伸ばせば伸ばす程に、元の人の感覚でのジョギングや全力疾走が歩く並みに楽になるのだから、それでもしてない奴は俺みたいな変わり者か、馬鹿か、体力に自信があるかのどれかだ。


「そんなの、知らない」


「はぁ!?知らないってなんだよ」


「知らないのは知らないわよ、指示に従って振ってた、だけ、なんだから」


 さっぱり理解できないがそれどころじゃない、まさか走れないなんて、俺の体力や筋力は普通の人と全く変わらない、つまりは小村さんを担いで走るなんて事は出来ず、その内ゴブリンに追いつかれる。


 ヤバいどうしよ。




 



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