53.


「作戦も想定もどれも意味が無いな」


「だから言ったじゃない、数分もてば良い方だって」


 確かにそんな事を望奈さんが言っていた気がするが、まさかこうも脆いとは分かっていても思いたくないから、少しは期待していたのが良くなかったのだろう。


「それにしても自衛隊の方々がどれだけ、ステータスという力を上手く使い、近接戦を繰り返し行えるかが重要ですね」


「それを言われると肩身が狭いのだけれども、その通りなのが悔しいよ。今までは数が数だけに対処出来てたけど、まさか細身の肉壁に苦戦する何て思いもしなかったよ」


「まぁ、細身であっても地球の生物じゃないですからね、硬さが想定を超えていても仕方ないですし、おかげで死んでもそいつのステータス値的な効力が反映されてる可能性に気づけたので良かったです」


「利己的な考えね、私達人側は押されてピンチなのだけれど?」


「ちゃんと助けますよ、だからこうして階段を下りてるんじゃないですか」


 屋上で話しを終えた俺達は、侵攻する勢いが激しいゴブリン達を背後から攻撃し、相手を混乱させ人側の防御態勢を少しでも立て直してもらう為だ。


 別に誰が死のうが感情的にはどうでもいいが、ゴブリンが人を殺して強くなる事だけは、なるべく阻止しなければならない、特に敵の強い個体がこの戦いLv1だろうと数百人以上殺されては、ドクロンみたいな奴が発生して、それだけで人側の勝ち目が途絶えてしまう。


「まぁ、敵の後方から攻撃する事が予定だった、と思えば良いですよ」


 一階まで下り、入って来た入り口のドアに目を向ければ、ガラス越しの向こうには疎らだがゴブリンの姿を捉える事が出来る。


「五島さんお願いします、前衛のトップバッターです」


「任された」


「俺も行きます」


 麓山さんが五島さんの斜め後ろに付き、一緒に外に飛び出そうと身構た。


「頼んだよ」

「うっす」


 そして五島さんがガラスの扉を勢いよく開け放ち、目の前を走っていた一匹のゴブリンを足で蹴り飛ばし、後ろから付いていった麓山さんが、見事な飛び蹴りで近くに居たもう一匹を数メートル先まで浮かし、塀に激突したゴブリンはぐちゃりと音を出しながら、ピクリとも動かなくなってしまった。

 

「うっ‥」

「人間離れね‥」


「お二人とも大丈夫ですか?」


「大丈夫です、お気になさらず行ってください」


「以外、お兄さんってグロい奴は平気じゃないの?」


「良いから早く行って上げなさい」


「はーい」


 九藤さんに続き、小村さんや白浜さんも黙って付いて行き、俺と望奈さんの二人が自然と最後尾という形になった。


「別にグロいとかじゃ無いんだけどな」


「やっぱりそっち?」


「もちろん」


 互いに横に少し顔を向け、頷き合っていた。


「俺達、あの二人に殴られたら死ねる」

「私達、あの二人に攻撃されたら終わり」


「「ははっ……」」


「行きましょ」


「ええ」


 もっと防御力を上げるか回避技術を身に着ける事は、思っているよりも急務なのかもしれないと、思ったのだった。


「マジックアロー」


 外に出ての初撃は俺達が進もうとしている方向の敵に当てる。その攻撃でゴブリンのこめかみに魔法の矢が刺さり、ゴブリンは頭から地面に倒れ、矢が消える。


「私もちょっと前に行ってくるわね。Lvを上げなきゃ‥‥」


「分かりました、気をつけて」


「ええ、ありがとう」


 何か奥底でLvを上げる必要性に駆り出された望奈さんが、俺が倒したゴブリンの近くに居た奴に攻撃をし始め、手で握りしめている矢でゴブリンの喉を突き刺し、足で蹴り離す様にして矢を引き抜き、近場のゴブリンの喉を再び突き刺す。


「弓の意味とは」


 声のした方を振り向けば、全然話した事が無い鈴木さんが立っていた、確か白浜さんの話しではこの人が魔士をLv5にしたのに上が無いと、ネタかノリで叫んでいた人だ。


「この距離で相手が数で来るタイプなら、素手で倒した方が早いのだとか本人が言ってましたよ」


「あっ、すいません。つい思った事を言いましたが別に批判とか、そんな意図は全然ありませんからっ」


「そんなに気にしてませんし、あの光景は仕方ありませんしね」


「そう言っても貰えると助かります、そして千田さんにお聞きした事があるのですがよろしいでしょうか」


「マジックアロー。 はい、何でしょうか手短なら」


「そのマジックアローですよ、実は僕も魔士なんですが、そんな威力は出ないので、一体INT値がいくつになれば辿り着けるのか知りたくて」


「なるほど、今はいくつ何ですか?」


「23です」


「ならもう少しですね、あの威力が出したいのなら30ですので、後2レベぐらいで仲間ですね。何だかんだやっぱり魔士の人が全然居ないので、これからもよろしく」


「教えていただき有難うございます」


「さ狩りましょうか」


「はい、肉体派には負けてられませんからね」


「その通りです」


 魔法職を選ぶ人はやはり関わりやすい。


「マジックアロー」

「マジックアロー」


 俺達は肉体派が攻撃しずらい奥に居るゴブリンを狙い放つ。


 奥側のゴブリンを遠距離で倒し、ゴブリンが多少動揺している所に肉体派が勝手に攻撃を仕掛けるので、俺達は想定以上のペースでゴブリンを倒していた。



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