49.静中


 俺と望奈さんが指定された場所に着き、周りを見渡すと既に一般人や自衛隊の人達が集まっており、恐らく最後である、俺達は睨まれてる様な視線を向けられていた。


「別にまだ時間前なのに、ピリピリし過ぎでは。」


「ここで貴方がさっきまで寝てたって事を言ったら、どうなるのかしらね。」


「止めて下さい、悪意を一点に引き受けるのはゴブリン達の役目です、分散するのは良くないですよ。」


「敵を騙すなら、味方から?」


「いやいやいや、実行したって効果薄すぎて意味ありませんよ、話が違いますって。」


「冗談よ。」


 本当に勘弁してほしい、別に俺は緊張とかもしてないから、余計に精神がすり減るだけなんだが、というか望奈さんがこの場の雰囲気に耐えられなかった、だけなのでは?気にしても仕方ないか。


「まぁ数分はありますもんね、気楽に行きましょう。」


「ええ。」


 俺と望奈さんはマンションやアパートが目の前に見える位置の、道路沿いの防衛ラインの上に立っているが、それは敵側にで1.5m程で手前を1m程の土嚢で形成された防波堤の様な作りであり、隙間に土を入れ固めてあるだけだが、その表面はとても綺麗で、どうやったら土の表面はこれほどまでに滑らかに出来るのか気になるが、おかげで足場としては全く問題ない。


「千田さん、緋彩さんやっと来たね。遅いから逃げたんじゃとか言う輩が居てね、困ってた所だよ。」


 急に後ろから話しかけられ、振り向くと苦笑い気味の五島さん軽々と土嚢に飛び乗ってる最中だった。


「ははは、それは申し訳ないです。すいません。」


「五島さんすいません、内の誰かさんがご迷惑をおかけして。」


 あれ、俺の責任なのね。


「来てくれたのなら問題ないよ、それにこれから一緒に戦うのにこれ以上気にされては、お互い無用な気遣いが発生してしまうだろ?」


「そうですね、まぁ私達からすれば些細な事ですし、この件は終いにしましょうか。」


「助かるよ。」


 俺が再度話す事無く、望奈さんと五島さんの二人で解決した為、俺は会話に入るタイミングを見失い、俺は周りを見渡しながら静かに立ち尽くしていた。


「お兄さんは、どうやら空気の様だね。」


 誰だろう、俺の知り合いにこんな小悪魔感がある少女は居ないはずだったが、そうか、最近認知したな、確か白浜さんのパーティーメンバーだ。


「えっと、小村さんだったよね?」


「おぉぉ、覚えててくれたんだ、やっぱり私が可愛いからとか?」


「何でそうなるんだよ。」


「冗談、冗談、だってッ、そんな呆れないでよ。」


 俺が呆れ気味に返事をすると、独りでに笑い出したぞ、最近の学生はこうなのだろうか、それなら何て自分勝手で楽しそうなんだ、羨ましいぞ。


「それで、空気の俺になんか用か?俺は今忙しんだ。」


「忙しいって何にもしてないじゃん。」


「それが仕事だ。皆の迷惑にならないように存在感を消す、それにこれを極めれば戦場でも役立つぞ。」


「そこまで行くともはや空気とは思えない使命感だよお兄さん。」


「それもそうだな、空気は心もフワッとさせなければ。それはそうとそのお兄さんというのは止めてくれ、俺は千田だ。」


「分かりました、千田お兄さん。」


 こいつ絶対わざとだな、俺が止めろと言ったのに止めないとは楽しんでやがるな、これで俺が妙に反応すれば向こうが更に面白がるだけか、ならもう気にしない以外に選択肢が無いな、それに言われて嫌って訳でも無いしな。


「あぁ、よろしくな。それとそろそろ向こうに行って、会話に入った方が良いぞ。」


 小村さんが話かけて来たという事は白浜さんや九藤さんも来ており、俺達の数メートル先では五島さんや望奈さんと一緒になって何やら話をしている。


「千田さんは行かないんですか?」


「俺はどうせ後で優秀なパートナーが手短に教えてくれるからな。」


「何だ、めっちゃ信用してるんですね、私と同じだと思ったのに。」


「白浜さん達を信用してないみたいな言い方だな。」


「いえいえ、違いますよ。彼女達は信用してます、長い付き合いですからね。」


「もし考え方が近いなら分かると思うが、長い間信用してた人に裏切られるのは辛いもんだ、気をつけろ。そして信じてやれ。」


「うわっ、私勘違いしてたかも、千田さんってそう言う事も言うんだね。」


「そりゃロクに俺の事を知らないだろ、勘違いしてたとしても仕方ないさ。俺はこういう人間だ。だから離れるなら今の内に向こうに行きなさい、タイミングを逃すとだるいだろ?」


「良いよ、良いよ、結果オーライって事で。」


 いや、何が結果オーライだよッ!俺が離れてほしいのに何故それが彼女には、伝わらないのだ、普通はこんな面倒そうな人の相手とか逃げていくでしょうに、まぁどっちにしろ終わりか。


「なんか来ましたね。」


「あぁそうだな。」


 俺と小村さんの二人を呼ぶのでは無く、望奈さん達がこちらに寄ってきた。


「可愛い子と話してる所悪いけど、そろそろ良いかしら?」


「はい。」


 何故だろうか、俺から話しかけた訳じゃないのに、俺が全面的に悪者扱いされてる気分なのは気の所為じゃない気がする。


「ペラペラと私の話に付き合ってもらって、ごめんなさい千田さん。」


 小村さんがちょっとだけ、俺を庇いながら白浜さん達の所に小走りで向かい、また女子達で何やら話始めた。


「それじゃ私達の役目は――」


 望奈さんから聞かされた事は以外だった、それは俺達は遊撃部隊という扱い及び呼称され、役目としては敵のボスをいかなる手段を用いても倒す事であり。その為に前線でどれだけ仲間である人が殺されようが襲われてても気にせず、ボスを倒す事だけを考えろとの事だった。


「つまり、人が目の前で死にかけてても見殺しで良いって事ですよね?」


 俺が確認のために聞き返すと、五島さんや望奈さん、それに九藤さんや白浜さん達の誰もが肯定してくれなかった。  


 あれ、俺の解釈がズレてた?


「誰か答えて下さいよ、間違ってますか?」


「間違ってないわ、貴方らしいわね。」


「合ってるなら良かったです。」


 合ってるなら後はゴブリンを殺すだけですもんね。


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