31.非現実な事
西側の方に進み始めて20分程が経ち、少しずつ住宅街の感じも変わってきた。
俺が住んでいるマンションがある付近は新しい一戸建てが多い地域だが、今歩いている辺りはマンションやアパートがかなりの数あり、住宅街の道としてはやはり空の見える範囲が狭くなるので少し圧迫感がある。
そしてマンションやアパートが多いという事は住んでいる人の数も多く、必然的に避難所を目指そうとした人も多かったのだろう、所々に死体や身体の一部と思われる物が落ちていた。
(それにしても食い散らかしが多いな)
住宅街のいたる所に目を向け、物陰などにも注目すれば、どんどん発見できる人体の一部、ここで人を食した存在が乱雑に食べたという証拠だった。
「酷いわね、どうやればこんなに散らかせるのかしら。」
「ホントですよね、食べ歩きもいいとこです」
「え?。」
「・・・・え?」
(俺ナニカおかしな事いったか?…いや、言ったつもりは無いが)
「まぁそうね、それで、これをしでかした行儀の悪いモンスターはどこに行ったの?てかさっきっから全然ゴブリンの影すらないんだけど。」
望奈さんの言う通り西側に進むにつれ、ゴブリンどころか他のモンスターすら発見出来なくなっていた。
「ヤバそうな気しますよね、今からでも戻ります?」
「何で私に聞くのよ、行こうって最初に言ったのは貴方でしょ、それに今戻ったって結局情報が無ければ不安は増すばかりじゃない?。」
「そうですね、すんません、少し弱腰になってました」
「まったくぅ、ほらシャキッとするッ!。」
パンッ
(あまり痛くはないけど、痛い。そう心が痛い気がする。)
背中を綺麗に叩かれかなりいい音が出た。
「望奈さん、そんな大きな音を出すとモンスターに気づかれますよ」
「気づかれるも何も私たち道の真ん中歩いてるのにい今更じゃない。」
「だからって大きい音を出す、メリットはないんですから止めてくださいよ、何ならやり返しましょうか?」
「大きい音を出すなって言いながら、やり返すって矛盾してない?それに女性をたたくというのかしら?」
(なんだよ・・・)
悪気を全面に出したかのように、上半身を少し折るようにして笑顔で斜め下から見てくる望奈さんだった。
「かわいいからやらない事にします」
「ふ~ん、まぁ、一応ありがと。」
(何だったんだよいったい、女性の心は分からん。)
―
―
雑談をしながら更に進むこと数分。
ようやく住んでいるマンションから西側の一番近い避難所にたどり着いたのだった。
「なんでこんな事になってるんですか、望奈さん」
「そんなの私が聞きたa,うッ。」
流石に望奈さんは耐えられなかったか、今にも吐き出しそうに口を押さえたまましゃがみこんでいた、まぁ無理もない、俺も少しでも感情移入してしまえば俺もああなるだろうからな。
たどり着いた場所は避難所に指定されていた高校。
そして俺と望奈さん回り道をすることなく真っすぐ向かっていたら正門が見えたので、そこから普通に入るように門まで来て、中の様子を確認したのだ。
まず最初に目に入ったのは校舎でも無ければ、グラウンドでも無い、山だ。
そう山。
その山は標高4mはありそうな程で学校にあるには、あまりにも不自然で、異様な光景の死体だけで出来た山がそこにはあった。
一体何人、何百人、の死体があればこの大きさになるのか、すら考えたくは無いが、考える事を放棄してはそこに積み上げられている人の死が本当に無駄なものになってしまう。
この数を築き上げたモンスターとはいったい・・
(それにこの血はなんだ?、山と正門を繋ぐような血の道ができて・・・まるで何かを引きずったかのような・・・・・)
俺の思考は一つの仮説に行き当たり、全身に一瞬で寒気が走り鳥肌が立った。
「望奈さん立って早くッ!」
俺はなるべく小声でだけど急かすように早口で声をかける。
そして望奈さんの腕を強引に引っ張り立たせ、正門から離れるように走り出す。
「ちょッ、いたい、うッ。」
(吐きそうな時にごめんなさい、でも、でも――急がないと)
カカッかかかっかっかかかかかかっかかかっカカかかッかか
平和な現実だった昨日なら、絶対に聞くことがないであろう、何かが高速でぶつかり合っているような不気味な音が聞こえてくる。
ドんッ
その僅か一秒後、後方から大きな音が聞こえ俺は振り向いた。
後ろを振り向くと、俺と望奈さんが数秒前まで居た場所は大きな土煙が上がっており、その中からは人のような形の影が微かに見えその存在感が確かにあった。
そして土煙が揺らめきその影を形作っている身体の一部が一瞬だけど見え、そこには白い棒のような物あった。
(クソッ、逆に最悪な相手じゃねぇーかよ)
人型、白い棒。
恐らくスケルトン系だろうが、今はそんな悠長に確認している余裕は微塵もない。
早く逃げなければ、奴の視界が土煙から出るその前に・・・・
「ひッ。」
望奈さんが急に声を発し、俺も謎の寒気にまたもや襲われる。
自分の悪寒がポンコツであってほしいとここまで思った事は今まで無かっただろう、俺は恐る恐る後ろを振り向いた。
(ああ‥やっぱりスケルトンだ、しかも向こうに目が無いのは見て分かるが、こりゃ間違いなく観られてるな )
「死んだかな」
無理だ。
恐らくあのスケルトンの移動速度は俺達より何倍も速い、逃げるのは不可能だ。
逃げずに戦うにしても、周りに他のスケルトンが居ない事からあのスケルトンが、一体であの人の山を積み上げたのだろう、なら絶対に勝てない、あの数の人間という経験値が美味しい存在を殺したスケルトンのレベルなんてそれこそ想像すらしたくない。
(どうせ死ぬくらいなら掛けるか)
INT34→INT69
俺は残っていた、SP35ポイントを全てINTに極振りした、AGIに振って逃げれる可能性を上げるのも選択肢としてはあったが、その程度での数値ではまだ奴の方が速いだろうと思い、ならば元々馬鹿みたいに高かったINTにすべてをかけるのみだ。
(奴が突っ込んで来たら、マジックアローを放って――はや..嘘だろ)
俺がステータス画面を操作した僅か1秒足らずでスケルトンは30m以上の距離を一瞬で詰め、俺が操作画面を閉じ視界が戻った時には既に手が届きそうな距離に居たのだ。
「マジkk」
(間に合わない、俺が言い終える前にこいつの手に持っている剣の方が俺を先に切り裂くだろうな、てかなんでこんなにも思考は、あぁそうかこれが走馬灯か)
身体や声、他の生物が関わる事がスローになっているのに、自分にしか影響がない思考だけが通常のように動いていた。
(あぁ俺は死ぬのか、死ぬ前にもう一度話をして謝りたかったな、俺はそれがいつか起こり得る事を信じて生き続けてたのに、今となればもう手遅れか…)
俺の身体は今、全力で走ってた状態から後ろを振り向き、スケルトンが近すぎた事に反応しようとした為、両足は宙に浮いている状態で後ろに倒れ込むようにジャンプしているような状態だった。
そしてスケルトンが俺の首をその剣で切り落とす為に、横に振りかざしている最中。
(避けるなんて無理だな、まだ足が地に着いてるのなら可能性はあったが今は足が宙に浮いているようなものだ、これ以上身体を動かして避ける事は不可能だ、つまり俺の身体は自重落下して下がるしかないのだが、このスケルトン相手にその速度はあまりにも遅すぎる)
「wぁあッ」
急に身体に認知していない力が加わり俺は、変な声を上げ思考の速度が元に戻った。
そして目の間近を何かが高速で横切ったような気がするがそれを認識する事すら出来はしない。
ッッスッ
音を置き去りにして後から聞こえて来る風を切り裂く音。
俺の思考速度が通常に戻り俺は一回ではあるがスケルトンの攻撃から助かった、それな魔法を放つ、俺の頭の中にはそれ以外に他は何も無かった。
「マジックアロ-」
スケルトンは俺の首を切り落とすつもりで接近して来た為、その距離は1mも離れていなかった。
(この距離なら避けられないだろうがぁああクソ野郎ッ!!)
俺が放った、魔法の矢はスケルトンの額に向かって飛んでいった。
その速度はいつもと変わらない。
でもあまりにも遅く感じる、それはきっとこいつの速度が異常なぐらい早いが為に感覚がおかしくなっているのだろう。
距離にして1mも無い、それなのにこのスケルトンを相手にするには果てしなく長い距離に感じた。
そして矢はじわじわと距離を詰め、コンマ数秒を経て狙っていたスケルトンの顔に命中し、そのスケルトンの頭蓋骨を吹き飛ばしたのだった。
「へぇ?」
そんな間抜けなような声と共に生死を決める戦闘は終了したのだった。
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