29.道徳



「ふぅ、なんだかようやく一息つけるって感じしますね」


塀を超えてすぐに俺はずっと我慢していたものを吐き出すように口を開いた。




「流石にそれは集団行動が苦手すぎるんじゃない?、まぁ私も外に出られて違う意味でホッとしてるのだけれども、まぁ皮肉よね、避難所で自衛隊に守られてた場所より無法地帯の外の方が安心するって。」



「もっと落ち着けるような場所を探しますよ」



「ほんと?ならお願いね。」




 覇気の感じない声でそう言われ俺は返答に困ってしまったが、これは是が非でもいつかは落ち着けるような場所を用意してやろうじゃないか、そう思ったのだった。



「そのためにもまずは、周りの情報をもっと集めたいですね、俺達はあまりにも周りの情報がなさすぎます、これじゃいつどこのどんなモンスターが襲ってくるのか分からないじゃ、うかうか寝てられませんよ」



「それもそうだけど、どこの情報から集めるの?。」



「マンションに一旦戻って、まずは西側から偵察してみようと思います、後パーティー組みましょ!」


 俺の声は楽しみに満ち溢れた感じが全面的にしてしまったが、それもそうだ、だってパーティーだぞ!?ようやくゲーム的要素が適用されるんだそりゃテンションも上がるだろうよ。



「あなた――いや、そうねパーティー組みましょうか。」




 かなり暗い喋りだしだったが、途中からいつもの声のトーンに戻り最後には向こうも乗り気になったかのようにパーティーを組むと言ってくれたので、結果的にこの発言は良かったのだろう。


「ではでは~パーティー申請っと」


 パーティーの組み方は簡単だった、ステータスが表示されている画面の隅にタブがあり、それを押すとパーティー画面に切り替わったのだ、そしてそこにパーティー申請と文字があったのでそれを押すと、対象を選択となり、どうやって対象を送るのかと思っていたが目で少し望奈さんを凝視したら対象として選択出来たのだった。



 この時に早速、元気を取り戻した望奈さんに罵られたのは言うまでもない...変態と。


 俺何も悪いことしてへんよな!?、もぉおお。



「これを押せばいいのね。」



 望奈さんが表示された、「はい」とか「Yes」「承諾」とかを押したのだろう、俺のパーティー画面が変化して、パーティーメンバー「Nonaka」と表示されていた。




 (え?何でローマ字表記なの?。)


 表示された名前はローマ字表記だった。


 一応望奈さんにも確認したら向こうでも俺の名前表記はローマ字表記らしい。




 こうして世界に一つの謎がまた増えたのであった。







「さて、考えても埒が明かないでしょう、移動しましょう」


 時間が経つに連れどんどん壊れている物が増えたり散らかっている物もある、そんな住宅街を俺と望奈さんは二人で進んでいく。




 時折、住宅のカーテンが一瞬動いたような気がしてそこを見ると、微かに動いているが人と目があうことはない、慎重に外の様子を確かめたいけど怖くてかなり慎重にやっているのだろうな。


 そしてこの状況で平然と道の真ん中を歩く、俺達はさぞヤバい奴らと認識しているんだろうな。



(この感じやっぱりまだ半数以上は家の中にこもってそうだな)



 それもそうか?、一時間とはいえ猶予があったんだ買い出し出来た人も居れば台風のように補強とかも出来た家庭もあったんだろうな。




 まぁオークならその補強は一発だし、鼻が聞くモンスターとかなら家の中にいるのがバレてそのうち死ぬだろうが、この辺はゴブリンが主で世界がこんなになってまだ9時間しか経過してないから被害がまだ少なくて当然といえば当然だ。




「何だが、物語でたまにいる村の異端児みたいな感じね。」


「ちょ、いくらなんでも例えが酷すぎません?俺達ってそんなに関わってはいけない存在なんですか!?・・・俺なら話しかけるんですけどね、どうやって最初はモンスター倒したのかとか色々聞きたいですし」


「それは貴方の考え方が特殊なだけよ、普通の人は不安や恐怖が先だって話しかけようなんて出来ないわ」


「それも分かりますし、それが嫌で自分は走ってるとこあるんですけどね..」




 ついつい、ゲーム的思考になってしまった、これはゲームをやってランキングとかそういったシステムがあるのなら上位を目指してしまう病気のようなものだ。


 でもこうなってしまってはそれは悪い事ではないと俺は思っている、法律が無いのなら今は力が全てだ、力が無ければ自分の大切なものは守れず消え失せる。




 ならば力を追い求めようではないか。




「走る?、あぁ、ほらまたゲーム的に考えてるじゃない。」


「すいません、ですがまだ大丈夫ですよ」


「何が大丈夫なのか私にはさっぱりだわ。」




(だってゲーム的、思考で良いなら人は経験値として優秀すぎるもん殺さない手は無いだろ?)


 人を殺すことで簡単にレベルが上がり強くなることは事実だ。


 だからこそ俺は強くならなければいけない。




 もし俺みたいにゲーム的考えもしくは異常者がその考えでそれを実行すら頭のネジが外れた奴が居るとしよう、そしてそいつと遭遇したら間違いなく俺達も経験値としてそいつの目には映るのだからな。



 逃げられる可能性は相手のステータスと思考力次第だが、勝つのは恐らく、いや、絶対に不可能だ。


 人はゴブリンよりも脆く数もまだ多い、それを経験値として狩っている奴が居るならそいつが恐らく今現在では最強のトッププレイヤーなのだろうから。




(なんて最悪な世界なのだろうか、善意者が損をして悪党が得をするのが分かりやす過ぎる。)


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