23.異世界の産物
朝ご飯はとても美味しかった。
出されたものはおにぎり二個とコンソメスープだったが、このコンソメスープが見せる薄まった色味とは裏腹に強敵だった。
絶妙なさじ加減で濃ゆくもなく薄くもない味に整えられたスープが喉を通り、そして中に入っている野菜も程よい大きさでとても食しやすい。
おかげでおにぎりがパクパクと口に入っていく、これならおかわり後二回ぐらいなら余裕で食べられそうだけど、仕方ないとは言え制限があるのがとても残念だ。
その美味しさからか周りの子供達も、美味しそうに食べていたのがこの避難所で唯一の、希望なのかもしれない。無邪気な小学生低学年以下が絶望する様な世界ならきっと、地獄でしか無いだろうから。
「やっぱり小さい子が多いわね、ここの避難所は」
改めて周りを見なくても、さっきの美味しそうに食べていた子どもたちを思えば、多いのは自然と分かってはいた。実際に言われてみれば更にそう思うが。
「自分の子どもが通っている学校の方が来るまでの道も分かって、学校の構造も多少は分かるから、小学生の子どもが居る家庭はここに来たんでしょうよ」
田舎だったら、小学校を選ぶなんてなく近くの所が一般的だが、東京の人は選ぶ選択肢がまぁある、だって近場に沢山学校ある。だから学校の勉強水準で選ぶ家庭もあるとか聞いた事があるけど、学校によっては荒れてる場所もあるとか何とか‥‥
でも小学校から学校を選ぶ親は実際は少ないはずだ。
だから結局はここに居る人達は近所で距離が一番近く、迷うリスクが無いに此処を選び逃げてきた人が多いんだろうな。
というか。俺達が今いる地域が学生とファミリー層が多い地域だから、若者と子どもが多いのは仕方ない気がする。
「だったら、もっと戦う人は居ないものかしらね」
望奈さんが言っている人達は恐らく。
家族単位で逃げて来た、父親と若い男性の事を指してるんだろう。
確かに守るべき者が居るのなら自衛隊だけに任せるのはどうかと思う。
これで強さが筋トレとか不確定要素なら自衛隊に丸投げだってわるぞ?だが、今はステータスという数値で簡単に、誰でも強くなれるし。その成果が一目瞭然で分かる今の世界なら、進んで強くなるのは当たり前だと思ったんだがな。
それに目の前にゴブリンが出て来て一匹すら倒せなければ、誰が家族や恋人を守るんだっつぅーのッ。
「仕方ないでしょ。俺もひよってる臆病な内の一人なので、何とも言えません」
というかどこから監視されてるか分からない状況は気持ち悪すぎる。
気楽に喋れないのなら気が休まらん、会社で上司と話してる方がよっぽどマシだ。
それにしても望奈さんはどうやって気づいたんだ?俺には余り分からないんだが。だって、自衛隊の人は周りを見たら必ず数人は目に入ってくる。それが俺達の監視をしてるのかと言われれば、それは分からない。
(だけどこの人は確証があるから言っている。そうじゃないと数分前のブーメランだもんな)
「それもそうね、このヘタレホタカっ!私ぐらい守ってよね」
おやおや、急にどうしたんですかな。
それは彼女という設定ですか?そうなのですか!?
「いざとなったら守るさ」
「目がやらしいわよ」
「………」
何のことでしょうか、そんな事…微塵も考えてなかった筈です。
―
―
―
「この人殺しッ!!」
体育館には戻らず。
歩いていても怒られなさそうな場所を、ウロウロと二人で散歩していたら、怒鳴るような男性の叫び声が聞こえてきた。
(俺のことか!?)
と、一瞬思ったものの。
声のする方を見ると大学生ぐらい若い男性二人が言い合っており、その周りにはそいつらの仲間であろう人達がそれぞれの後ろで待機していた。
「おいおいおい、奴ら今にもおっ始めそうだな」
「巻き込まれるのはごめんだわ、先に戻るわね」
「あ、はい…」
望奈さんは何も見なかったかのように、体育館の方に戻って行った。
だが他の避難民もヤジとなり俺みたいにそれを見ている者も大勢居て。一部は自衛隊員を呼びに行ったであろう人達の姿も見えたが、体育館に戻っても結末が気になる事が分かっている俺は、その場に留まり聞き耳を立てていた。
「―ろぉがよ、それを俺達のせいにされてもなっ」
金髪のチャラ男が、相手を挑発するように見下さいた言い方で言葉を放ち、
「テメェらが大量のモンスターさえ連れて来なければ、めぐは死ななかったッ」
それを堪えるように耐えている180cmぐらいの青年が、前に出て争っていた。
「誰だよめぐって。あぁ、あの死んだ女か。もしかしてお前の彼女だったか?」
「殺してやるッ」
「ははッ、かかって来やがれ返り討ちにしてやる」
おいマジカ…
チャラ男と青年が武器構え、それをきっかけに後ろに居た奴らも、手に持ってるバットや包丁など持ち前の武器を構えだしていた。
チャラ男に関しては剣だし。
(てか、剣!?なんで剣なんて持ってるんだよッ)
その剣を良く観ても、日本刀などではなく。
ファンタジー世界にありそうな両刃のブロンズソードで、刃渡りが片方で3cmはあり剣身も1m以上はある、大きめの剣だった。
日本のどこにあんな剣を扱ってる店とかあったか?無いならどうやって手に入れた。作った?……いやそれは無いか。こんな短時間では無理だろうし、あいつらが作れそうにも思えない、ならばドロップ品か?
確かにゴブリンも刃物を持ってる奴が居た気がする。
そいつを見かけたのはあいつらが大群で、俺達がマンションから逃げてる時に少しだけ見ただけだから包丁とかって思ってたが、あれも短剣とか別世界の物だったのかもなしれないな。
って事はあの金髪のチャラ男は剣を持ってたモンスターを倒してるって事になるな。
やばいな…
ゴブリンが持ってたなんて事は剣身の長さ的に考えづらい。つまりゴブリン以上に身体の大きな敵を倒してゲットしたなら、それなりに強いはずだ、そんな奴が戦えば間違いなくあの青年死ぬぞ。
「ぅぁぁああああああ」
青年の方がバットで殴りかかった。
その動きは早いがただ上から振り下ろすだけの、安易な攻撃だった。
そしてそれを剣の腹で雑に受け止めたチャラ男が、剣の切っ先とグリップを手で持ち。上から押さえつけるように振り下ろされてるバットを弾き飛ばす様に、剣を一度下げてから勢い良く、上に押し上げていた。
押し上げた力によって振り下ろしていたバットが上に弾かれ、バットを振り下ろしていた青年の姿勢は大きく後ろに仰け反っていた。
「死ねッ!」
そしてそこに今度は剣を振り下ろそうとしている、チャラ男。
(お前らは振り下ろすしかないのか?てか、あの青年死んだな)
まだ体勢を立て直せていない青年は、手に持っているバットすら前に構える事が出来ない状態だった。
そして青年の後ろに居た仲間達も目を見開き、ヤバいとは誰もが感じているだろうが、そこから行動に移せている者は一人も居らず。
――剣は振り下ろされきったのだった。
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