17.ゴブリン!?
「望奈!上ッ」
怒鳴る様に咄嗟に叫んだ声が届き、上を見上げた望奈さんの視界には、棍棒を振り上げながら落下してくるゴブリンが間近に映っていた。
「ッ⁉」
半ば反射的に望奈さんが横に動いた事で、トンッ!という鈍い音がアスファルトから鳴り、棍棒を硬い物に当てた反動からかゴブリンは硬直していた。
「やッ」
(おお、初めて見たぞあれがスキル「キックアウェイ」か、思ってたより距離取れるんだな)
地面を叩きつけしゃがみ込んだゴブリンの顔を、壁キックの壁代わりに望奈さんが蹴りつけ、後ろにジャンプしていた。
そのスキルだけでゴブリン倒せるんじゃ?
人一人が3mも後方に跳躍する力を、壁代わりに受けたゴブリンは後転する勢いで後ろに倒れ、コロコロと地面を転がっていた。
シュ――
「あっ…」
転がって、ようやく止まったゴブリンの額には、瞬きする間も無く放たれた矢が突き刺さっていた。
「な、ナイスです」
「ありがとう」
ゴブリンよ、成仏しろよ。
―
―
マンションから10分程の場所で、ゴブリン達を狩りまくっていた。
歩いて、歩いて、目に入るゴブリンは全て倒し。いや、俺達はそうするしか無かったのだ。数が多い為に、少しでも油断したり取り逃しや時間を費やせば、ゴブリンが溢れ手に負えなくなる。
それにゴブリンの平均Lvも上がった気がしていた。動きも良くなり、魔法を避けようとする奴すら既に現れ、マジックアローの速度を超えられるのも時間の問題かもしれない。
「このままだとジリ貧なのだけど」
望奈さんからどうするの?という風に言われた。
確かにジリ貧だ、敵が多くて強いならまた矢を回収出来なくなって望奈さんが戦えなくなり、俺が全て捌くしかないのだが、俺の攻撃はMPを必ず使いその攻撃回数の上限は低い。
俺がこんなにも役に立ってないのはMPの回復速度が遅いからだ、なんだよ10分で1MP回復とかふざけてるだろ。
今の俺がMP全回復させるのに、約1日かかるんだが?
こんなの無理ゲーだ。
「どうしましょうか」
「――私たちに出来る事は、頑張ってLvを上げる以外にあるの?」
「結局それを後回しにしたら死ぬ確率が上がるだけですからねぇ」
どうしよ...
――
「ギィぃぃキャッキャキャアア」「ギギっぃ」「ギィ!!!!!!」「ギィッ!」
(はぁ、またゴブリンが湧いてきたよ、今度は何匹きぃ――)
「ハイゴブリンだ!」
「大人ゴブリン!?」
いつものようにゴブリンが出てきたと思ったら、一匹だけ他のゴブリンより明らかにでかい奴が居た。
その大きさは他のゴブリンの1.6倍はありそうだ。
普通のゴブリンが1mぐらいの小学生なら、そのゴブリンは成人男性より少し小さいか同じで、160cmはありそうな細マッチョな体型をしていた。
(てか、大人ゴブリンってネーミングなのね望奈さんは)
敵の強さも分かったもんじゃないが、先手必勝。
「望奈さん、やっちゃってください!」
なんだろう。
今の俺すごくカッコ悪い気がする。
だけど仕方無くないか?
普通のゴブリンだって魔法の速度に反応するんだぞ、あのゴブリンなら避けそうじゃん?それなら速度的に、望奈さんの矢の方が早いんだから先手に使って何が悪い。
それに望奈さんの命中精度は人を通り越してる気がするし。
望奈さんは弓を一連の動作で素早く構えるが、その動作はやはり速いはずなのに、綺麗に脳に焼き付けられ、鮮明に捉える事が出来てしまうから、不思議でならない。本当に、何回その動作をしたら、その域に達するのか気になるよ。
そして矢は放たれた。
矢がハイゴブリン(と命名)に向かって飛んで行き。ゴブリンと矢の距離が一瞬で縮まるも、矢がゴブリンに刺さる事はなかった。
ゴブリンが反射的に首を
(嘘だろ!?矢の速度って200kmは超えてるんだぞッ!)
しかも目に向かって真っ直ぐに飛んで来る矢なんて、距離感覚も分かりづらいのに、避けるとか可能なのかよ。いや、可能だから避けてるんだよな...。
「望奈さん」
「なにっ、謝らないわよ」
「いえ、逃げましょ!」
「賛成よッそうしましょぅっ」
二人同時に後ろに振り向き、全力で走り出す。
(無理無理無理!あんなの)
矢を避けれるなら、俺のマジックアローがいくら威力は強いからといっても当たらなければ意味がないじゃないか。
そして当てるには恐らくゼロ距離発射しか方法が思いつかんが、俺の身体能力はデフォの人間と変わらない、ごくごく普通の一般人だ。
近づいたら間違いなく殺される。
だから取れる選択肢は逃げの一択だ。
「本当にあなたと出会ってから走ってばっかりなんだけどッ!」
「そんな無駄口言う暇があるなら、走ってください……ッ!嫌ぁだぁあああ追いかけて来やがったああああ」
俺が後ろを振り向くとハイゴブリンの奴が、他のゴブリンを置き去りにしたまま走って来やがった。
しかもめっちゃ早い。
「いゃああああ、どうしてこんな目に合わないといけないのよぉぉおおおっ―」
「そんなの俺も知りたいですよ、てかこのままだと追いつかれません?俺たちの体力は無限じゃ無いんですよッ」
ハイゴブリンとの差は全く開かず、このままでは1分もしない内に追いつかれるか、アドレナリンが切れて走れなくなるかだ。
「どうすんのよッ!?」
「望奈さんも考えてください、じゃないと囮にしますよ」
そんな言い合いをしながら、俺と望奈さんは冬の住宅街を全力で走り続けるのだった。
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