16.理不尽だ


 あぁ、どうして俺の身体はこんなにも不規則に、正しく目覚めてしまうのだろうか。

 

 寝る前は何度も死ぬ思いもして、長時間起きていた代償の睡魔も合わさっていた筈なのに…

(まだ5時かよッ)


 バックライト機能が付いた腕時計に視点を合わせ、探し出した短針の針は、Ⅴと刻まれた箇所の真上にあり、外はまだ暗く朝だと認識し始めていた。


 普通の良い子はもう少し寝てるんじゃないのか?


(俺もそれが良いぃ)


 まぁ起きてしまったものは仕方がない…



 いま俺達は、スタートダッシュをサボればサボる程、死に近づくであろう事は分かっている。ならばと、一刻も早くLv上げをしたいが睡眠不足で些細なミスを起こし、それが原因で死ぬ可能性もあり、時間と集中力を天秤にかけなければいけない。


 しかし、俺の予想ではここまで頑張っているプレイヤー、いや、ここまで頑張っている人はそうは居ないと、予想はしている。


 理由は単に魔物が出現する世界になった時点で、どれだけ自分の命を大切にしているか、だが、その点でいえば俺は他の人よりは色々違うからな、案外楽だったりするんだよな。


 そしてLv上げの為に今から外に行くわけだが、寒いし、憂鬱だ。


「叶うならば寝ていたい」


「寝てたいなら、まだ寝れば良いじゃない」


「………オバケっ?!」


「誰がオバケですって?」


「いえいえいえいえ何でもないですぅっ」


 いつから起きてたんだよ、起きたら普通に第一声はおはようだろ?頼むよ、そうしてくれ。割とまじでホラーだった。


 俺がついつい声に出して寝ていたいと言ったら、いつから起きていたのか分からない望奈さんが急に寝てたらと言ってきたのだ。どう考えても普通に怖いわ。


「っそう、おはよう」


 ようやく言うんですね、そんな気はしてましたよ。


「おはようございます、望奈さん。寝顔可愛かったですよ」


「なッ、あなた私が寝てる間になにしてるのよッ」


「何もしてないですよぉ~ちょっと見てただけです」


 髪が長くてメガネが似合いそうなクラスの委員長みたいな子が寝てたら、普通は見るだろ!?それだよ、俺はただただ当然の事をしていたんだっ、うん。


 日頃厳しい感じの子がスヤスヤと寝てるんだ、ギャップがあって最高なのは言うまでもない!



 バチンッという音が短く鳴り、第三者の力によって俺の顔の向きが変えられていた。

(痛い。俺が何したって言うんだ、理不尽だ…)


 ここは俺の家で、俺の部屋で、向こうがこの部屋で寝たんだろ?それに加え俺は襲ったわけでも、ましてや触った訳でも無い、部屋に侵入して来た奴を見てただけだぞ!


「ビンタはひどくないですか!??」


 俺の左頬がじんじん、しやがる。


 これ絶対、跡ついてるやつじゃん、どうせなら触っとけばよかったか?殺されそうだが、打たれるぐらいなら....


千田せんださんも目がスッキリ覚めたでしょうし、しばらくしたら行きましょうか」


 この女、今すぐゴブリンの集団にでも放り込んでやろうか?ぁあッ?だが、今は、今だけは許してやろうじゃないか、覚えてろよ。



「そうですね~そうしましょうか」


 ごめん、無理だった。


 めっちゃ棒読みで声に不満が現れてしまった。


 誰だって、理不尽にあったらそりゃそうなるよな?頑張った方だと思う。


「……」


 何か言いたげに俺を見ていた望奈さんだが、俺は無視して準備をした。



――



「さぁ行きましょうか」


 狭い部屋の玄関から二人で外に出る。


 俺と望奈さんは基本的に走ったりするので重たい荷物を持ち歩いたりはしない、持ってるのは500mlのペットボトルを各自に一本と軽い非常食ぐらいだ。


 だから俺もまだ持とうと思えば全然荷物を持てるので、望奈さんの予備の矢筒を一セット持っている。


 先程は矢の回収が間に合わなくて、望奈さんが攻撃出来なくなってしまった反省からだ、俺が予備を一セット持っている事で少しでも状況が改善する事を願っている。


 後、一,二セット持とうと思えば持てるが、かさばるから持たない、どんな奴が居るかわからない状況では隠れる、逃げるは絶対に起こる事だからな。


「どんどんLv上げしていきますよ!望奈さん」


「了解よ、任せなさい今度はちゃんと、上手く捌くから」


 パーティー機能があれば楽してLvが上がりそうなんだけどなぁ~、そんな機能は無いので望奈さんが働けば働く程、俺が獲得できる経験値は減少してしまう。


(本音を言えば頑張りすぎないでもらいたい)


「マンションから少し離れた所から、ゴブリン共を殺しましょうか」


「え、別に近い所も倒しても良いんじゃない」


「確かに結局はどっちもどっちでしょうけど、俺は近い所は残したいんですよね。だって仮に半径数百メートルの敵を全滅させたら、この辺りの人が外にモンスターが居ないならって、火事場泥棒して物資を調達するかもしれません。その時自分の部屋が標的にされたら嫌ですからねぇ~ゴブリンには俺たちが居ない間は周辺警備を任せます!」


 使える者は何でも使う。


 例えモンスターのゴブリンだろうと。


「だからって少しは減らさないと私達が寝てる間の安全に問題が出ない?」


「まぁ、だからどっちもどっちなんですよっ、ささ行きましょう」


 あまり否定的な意見は言わないようだ、何も言われないならと、俺はマンションから出て、住宅街を歩いて離れたゴブリンを探し出す。


(レベリングだ、頑張ろう)


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