9.殺す道‥
(俺の部屋は無事みたいだな)
望奈さんの部屋を出てから、向かいにある自分の部屋のドアを見るとちゃんと閉まっている事だけを確認し、俺は階段の方に近づき外の様子を確認する。
(魔物が出現して既に10分…‥流石に外に生きてる人はほぼ居ないな)
正確にはまだ多数いるが、完全におもちゃ扱いだな。
殴ったり、食べたり、犯したり。
まるで人間が人形のように扱われているその光景は、人が日頃他の生き物を下に見ていた報いを、受けさせられてる気分にさせていた。
(今出ていけば、新しい獲物が来た!と喜びそうだな…)
「一旦、俺の部屋で魔物達が散らばるまで待ちましょうか」
いくら俺の魔法が強くなったと言っても囲まれたり、MPが尽きればどうしようもない為、部屋で待機する事にした。
「んっ」
望奈さんうなずきながら答え、俺は自分の部屋に入り、望奈さんをどうぞと招き入れるが、部屋は地震で悲惨な汚さだ。
「見ての通り地震で、大変なことになってますが気にしないでください」
「そんなの、分かってるけど、あなたが私の部屋に入った時に、その言葉を言わなかった私の部屋は元々あの状態だったみたいに聞こえるじゃない...」
「えぇ~そこ気にしますか?普通‥」
「気にするわよっ..女性をなんだと、思ってるのよ、まったく」
そこ気にするなら他の部分も気にした方が良いような…まぁ俺が気にする事じゃないか。
「その辺の物をどかして適当に座ってください」
「失礼するわね」
なんだろう、段々と落ち着きを取り戻して性格が変わってきた気がする、こりゃ口調が少しキツイ委員長タイプだな。
髪も黒髪ロングだし、眼鏡も似合いそうだなよし、今度つけてもらおうと勝手に考え、そんな姿を想像してしまうのだった。
「ちょっと、あなた何ジロジロ見ながら頷いてるのよ、変態っ」
「なッ!変態とは失礼な! 変態って言うなら本当に変態になるぞ、良いのか?」
「良いわけないでしょッ!」
ツンしてる、後はデレか?そうすれば一端のツンデレの完成...なんだが、まぁその辺は追々だなって‥俺は何を考えてるんだ。
「それで望奈さんの武器はそれ?」
「そうね、これが私の武器‥かな」
そう言いながら手で、ポンポンと弓袋を触っていた。
(そうか弓か、俺と同じ後方だな)
一般的に後方職が居るなら前衛が居た方が安定して王道だが、この状況での俺の考えは少し違った。
二人とも後方という事は同じ距離で戦える、これは前衛と前衛の場合でもそうだが、同じ距離感で戦えるという事は常に一緒に行動しようと思えば出来るという事だ、それだけで分断されるリスクが減る。
そして初見殺しの定番の状態異常では、近距離と遠距離のどちらでも攻撃としてあるだろうが、後衛しかいないのなら近距離での、刺さったりかすり傷や、相手に触れてからのデバフは喰らわないと考えている。
それに遠距離から攻撃して、近づいてくる前に攻撃して倒す事でそもそも相手に何もさせないで終わらす事が出来る可能性があるだけでも、遠距離攻撃同士が組むメリットがそれなりにあるのだ。
相手に攻撃されたら後衛しか居ない場合は辛いが、一応INTに極振りと言うなかなかな博打状態な為、恐らく接近される前に倒せるだろし、倒せなかったら俺が倒されるだけだ。
「ステータスのポイントってどこに振りました?」
「最近、弓を触ってないから外したらダメだと思ってDEXに2、走って逃げれるようにAGIに2,最後に少し弱腰になってVITに1振ってしまったわ、1とかじゃ殆ど変わらないだろうにね」
(思ったよりも真面目そうでよかった~)
考えがちゃんとあるのはメッチャくちゃ良いと思う。
これで弓を武器に使う予定の人がSTRに振るとか意味の分からない事をしていたらどうしようかち思ってた所だ。
「成程、良い感じだと思いますよ、それと、もちろんモンスターを射抜けますよね?怖いとか嫌とかは面倒なんですが」
「何よ、そんなに睨まないでよ..」
おっと、睨んでたつもりはないのだが。
そして泣きそうになるのは勘弁してくれ。
「大丈夫よ、たぶん…流石に、そろそろ現実を受け入れつつあるもの」
「それは良い事です、これが今の俺たち人類の共通の地獄であり、現実ですので早く受け入れた方が生き残る可能性は上がりますよ」
「ほんと貴方って、変な人ね」
「変態の次は変な人ですか?、まぁ良いですが」
「あら、良いの?本当に変な人ね」
よく人じゃないと言われてたからな、変な人と今更言われても人外よりは良いと思えてしまうのだ。
「それじゃ、早速ですLvを上げに行きましょうか」
「ええ、分かったわ。何かあったら、ちゃんと守ってよね」
すっかり守られる気満々ですな、その感じだと自分で二を選択したこと覚えているようだ。良かった。良かった。本当に良かったよ。
最低限の物をだけを持ち、外に向かう。と言っても前回同様に、地の利がある所からの攻撃予定だが。
「さて、あの人はもう助からないでしょう、モンスター共々楽にしてあげましょうか」
俺はそう言いながら、ある方向を指さす。
「まだ、ちゃんとした手当を受けられれば」
この人は何を言ってるんだ?やはり馬鹿なのか?
「今のこの状態で病院がまともに機能していると?機能していてもどうやって連れて行くんですか?、不可能ですよ」
病院までは最短3kmはある。
それに腹から大量の血を流していて、ゴブリンにおもちゃにされてて、もう生きてるのかすら怪しい状態だ。
(そんな人を助ける為にリスクを負えと?ふざけるな、そんなのはごめんだ)
「なら望奈さんはゴブリンを射抜いてください、自分があの女性を狙います」
返事するでもなく、ただ黙々と弓を横で構え始めた。
やはり弓は大きいな、2m20cmぐらいだっけ?それを構え矢を引いていく望奈さんは、無表情だけど目が何かを訴えていたようにも見えた。
「合わせます、どうぞ」
俺がそう言ううと望奈さんは数秒で矢を放った。
そしてゴブリンの側頭部に矢は刺さり、ゴブリンは矢が当たった側の反対側に横にゆっくりと倒れていった。
「マジックアロー」
ゴブリンを倒したのだから、そんな急いで倒す必要は無かったのかもしれないが、生きる可能性が有れば隣の人が何を言い出すか分からない。
それに助から無い状況で身動きも取れずに、次はいつ、どんなモンスターが自分を食べに来るのか分からない恐怖の中、待つなんて俺はそれの方が酷だと思っている。
(安らかにお眠りください)
そしてまた、人を手に掛けるのであった。
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