2.

 ガタン、というおおきなおととも彼女かのじょました。

「うわぁっ!」

 びっくりして、彼女かのじょはそんななさけないこえらした。がつかぬうちに、ずいぶんとながあいだてしまったようだ。

 彼女かのじょまぶたをこすりながら、まどガラスしにそとた。

 あたりはくらだった。どこかの田舎いなか山道さんどうはしっているらしいが、街灯がいとうなにもないせいでまったそと様子ようすえない。

 そして、なにより重要じゅうようなこと――

「……どこだろう、ここ」

 そこは、あきらかに彼女かのじょ目指めざしていた場所ばしょではなかった。周囲しゅういえきはおろかまちあかりすらえず、彼女かのじょはひどく不安ふあんられた。

 みち間違まちがえてしまった。

 彼女かのじょあわてて降車こうしゃボタンをらした。

 するとバスはみちわきにあったちいさな停留所ていりゅうじょまえ乱暴らんぼう急停車きゅうていしゃした。おかげで彼女かのじょはつんのめって、まえせきあたまをぶつけてしまった。

 おでこをさえつつ、運転席うんてんせきへとかった彼女かのじょりるまえたずねた。

「……あの、ここってどこですか」

 その年配ねんぱいおとこ帽子ぼうしかおをうずめたまま彼女かのじょもくれず、不愛想ぶあいそうこたえた。

「『うん』ざ。はやり(『うん』だ。早く降りな)」

 どこのなまりともつかぬ言葉ことばだった。

 彼女かのじょなにかをいかけて躊躇ためらい、しょぼくれたかおでそのままぐちつぐんでしまった。

「……すみません」

 なにわるいことをしていないのにあやまって、彼女かのじょわれるままバスをあしりてしまった。

 このときになって、彼女かのじょはようやく気付きづいた。

 そのぼろぼろの停留所ていりゅうじょ名前なまえ漢字かんじ一文字ひともじの「おに」である、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る