「小学生の手に余る」シリーズ

すき間

 小学校五年生のとき、当時私の通っていた小学校のウサギ小屋のウサギが何者かに殺されてしまった、という事件があった。なんでも、夜の間に不審者が校舎に忍び込んだらしい。

 この事件はテレビでも取り上げられたせいで、しばらくの間はこの話題で持ち切りだった。

 事件のあった日の朝、学校の前に撮影機材を持ったテレビ局の人たちが集まっていて、子供たちにインタビューをしていた。

 この時、私は野次馬根性丸出しでテレビカメラに映ったのだが、それが全国ニュースで放送されてしまった。一躍地元の有名人になった私はことの重大さなどそっちのけで、ただ調子に乗っていたのだった。


「なんでこんなことするだかいね」

 次の日、朝の会で話を始めた担任の中村先生は、開口一番にそう言ってため息をついた。

「先生、ウサギ当番はどうするんですか?」

 生徒の一人がそう質問すると先生は、

「危ないでしんでいいよ。まぁ、しばらくあの辺近づかん方がいいら」

 と答えて、また大きなため息をついた。

 しかしこの答えを聞いて、同級生のみんなは大盛り上がりだった。

「イェーイ!」

「やったー!」

「これでもう、ウサギの世話やらんでいいな!」

 歓声に沸き返る教室で、私は隣にいた友達とハイタッチした。みんなよほどウサギの世話が嫌いだったらしい。

「……しょうもな」

 学級委員のひーちゃんだけが、冷めた目で見ていた。

 朝の会の最後、先生は繰り返した。

「とにかく、今日は寄り道せず早く家に帰るだよ。分かった?」

「はーい」

 この時だけは、みんな先生の言うことを聞いて大きな声で返事をした。


 休み時間になると、みんなが私の机の周りに集まってきて、口々に話しかけてきた。

「山っちすごい」

「うちもテレビ出たかったやー」

 普段は全く話しかけてこない女子たちが言う。

「山田、お前だけズルいぞ」

「そーだ、そーだ」

 男子たちが悔しそうに言う。

「いいだろ、別に。そんなこと言うなら、お前らも何か面白いこと言えばよかっただよ」

 何も偉いことをしてないのに私は鼻高々だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る