2018年 私立高校の とある教室

 昼休みの始まった、騒がしい教室。凛は親友の零と一緒に、いつものように弁当を食べていた。玉子焼きやらハンバーグやらを交換しながら、他愛のない会話に花を咲かせる。

「ねぇねぇ、凛。アタシさぁ、最近公開された映画に、興味あるんだよね」

「あー、あれかぁ。何だっけ、大正時代のラブロマンス?」

 凛はトマトを口にしながら、最近のテレビCMを思い出した。確か、二人の青年とラブレターを巡る、甘い恋物語だったような気がする。

「そーそー。今度の日曜日、一緒に観に行かない?」

「あー、行こうかなぁ……」

 そう言いながら、彼女は廊下の方を見つめた。通路を大々的に塞ぐ、男子たちの悪ふざけ。……その中に、彼女の憧れの先輩がいる。

「……おーい、凛。アタシの話、聞いてる?」

「えっ!? あっ、うん!! 聞いてるよ!!」

 怪しむ零と、誤魔化す凛。彼女の恋心は、完全にバレバレだった。

「どーせ、また、逢坂先輩のこと見てたんでしょ?」

「見てない! 見てないから!」

「そんなこと言ったって、もうバレバレだしー」

 零は首をすくめると、ちらりと先輩の方を見た。……何かを思いついたと言わんばかりに、口元を緩めながら。

「せっかくならさぁ、逢坂先輩を誘って、二人で一緒に行けば? 映画みたいに、ラブレター書いてさぁ」

「えっ!? や、やだよ!! 恥ずかしい!!」

 凛は顔を真っ赤にしながら、ブンブンと首を振った。――ラブレターを書いている自分を想像するだけで、顔から火が出そうだ。

「なーに言ってんの! 恥ずかしがってちゃ、恋は成就しないでしょーが!」

「そ、それはそうだけど! 零は他人事だからって、私のこと、面白がってるでしょ!」

 ……そう言いつつも、凛のうわついた視線は、再び先輩を追っている。最近はずっと、この調子なのだ。

「ほーら、また見てるー! 思い切って、告白しちゃいなさい! 零ちゃんは、凛のことを応援しているぞー!」

 零はケラケラと笑いながら、凛の背中をバシッと叩いた。彼女は親友の恋心を、からかいながらも応援しているようだ。

「も、もうっ……! 零のバカ……!」

 凛は怒ったような顔をしたが、直後、吹っ切れたような笑みを浮かべた。……今日の放課後、駅前の文房具屋で、可愛い便箋と封筒を買おうかな。明日の朝、ラブレターを下駄箱に入れられるように。そんなことを、心の中で思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

廻り巡る、ラブレター 中田もな @Nakata-Mona

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ