第4話 - あの子とこの子
気にしてます、と朱莉はしっかりとした口調で言った。
「前飼ってた子、私が帰ると、いつも玄関のところで待っていてくれたんです」
朱莉も立ち上がり、右手をポケット入れた。手がスマートフォンにあたる。
「あの子が死んでからは当然、玄関を開けても誰もいないです」
ゆっくりと朱莉は話した。
「もちろん悲しい。悲しいですけど。こういうのは必ずくるじゃないですか」
そうだね、と美咲は答えた。
「あの子が病弱になって、あの子が死ぬことを何度も考えました。この子が死んだら、辛いだろうけど、この子のことを毎日思い出してあげようって、あの子が死ぬ前に何度も考えました。私は、あの子の死を受け入れる準備をしていました」
街路灯が一瞬消え、再び弱い灯りを灯した。
「1週間前、あの子は私の腕の中で死にました」
すみません暗い話で、と朱莉が謝ると、全然いいよ、むしろ私が始めた感じもあるし、と美咲は少し申し訳なさそうに言った。二人は、ラッキーが匂いを嗅いでるベンチに座ることにした。ラッキーは美咲の足元で寝そべり始めた。
「あの子が死んで、すごい落ち込みました」
うんうん、と美咲は言った。
「なんとか、自分でご機嫌取って、ありがとうってあの子に言って、飼い主として、乗り越えないといけない壁を、私は乗り越えたと思いました。飼い主として、責任を取ったと思いました。でも違ったんです。私はとてもひどい飼い主でした」
どうして、と美咲は言った。美咲は、悲しそうにはしていなかった。
「昨日、家に帰ると、扉に入っていく犬の姿が見えたんです。そして、私、呼んじゃったんですよね」
朱莉の目線の先には、似たような姿の枯葉が散らばっている。
「あの子の名前を」
あの子とこの子 きー @kiida
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