第四章 私、婚約者になりました。

第137話 婚約者 1

「レオナール。少しは表情筋を鍛えろ。だらしない顔になってるぞ。」


 クロヴィスはため息交じりに注意する。


「これが明日の布告の内容だ。」


 クロヴィスに渡された紙にはレオナールと里桜の婚約が正式に決定したと書いてある。それをじっと見る。そこに、承認の印を押す。


「よろしく頼む。」

「あぁ。」

「それと、もう一つ片付けないといけないことがあるんだ。大叔父上も呼んで話したい。」

「あぁ。分かった。調整しよう。」



∴∵



 里桜が七十四代国王レオナールの婚約者になったことが発表され、レオナールの度々の慶事に街は一段とお祝いの空気になった。

 そして、里桜を養女として迎えたロベールの屋敷にもお祝いの品が引っ切りなしに届けられている。

 前もってこの状況を見越していたクロヴィスは、王宮から下働きの者と侍女や従者を手配してくれていた。

 しかし、里桜は机に肘を付いて浮かない顔をしている。


「リオ様どうなさいましたか?」

「神殿へ出仕したい。」

「それは暫く控えるようにと、尊者様方からのお言付けでございます。」


 里桜が一歩を踏み出したら、事が運ぶのに時間はかからなかった。みんな事前に準備をしていたのではと疑うほどに早かった。

 婚約の発表の少し前から神殿も騎士団も国軍もその話で持ちきりになってしまい、出仕を止められてしまって神殿へはずっと行けていない。

 書類の仕事は、午前中にジョルジュが書類をまとめて持って来て、それを処理したら、午後にジョルジュが持ち帰る事になっている。


「リオ様、お手が休んでおります。」


 ジョルジュはにこやかに小言を言う。

 書類自体は転移魔法でどうにでもなるが、神殿の尊者たちが里桜の話し相手としてジョルジュを屋敷に行かせていた。

 屋敷の中にはロベールが新しく設えてくれた執務室があり、神殿のものより豪華だった。里桜はその豪華な部屋の豪華な机で不貞腐れながら頬杖を付いている。


「そう言えば、リナさんやアナスタシアさんは?リオ様をお一人にするのは珍しいですね(リオ様をお一人にすると無茶ばかりするから)。」

「婚約のお祝いの品が多いみたいで、その仕分けにかなり手間取っているみたい。」


 ジョルジュはなるほどと納得する。自分の目の前で、仕事を放棄して頬杖を付きながら、魔術で羽ペンを行進させている人は、虹の女神であり、神殿の大尊者であり、王の大叔父を父に持つ公爵令嬢で、王の婚約者だ。この国では無双の存在だ。


「私は治療所に行きたいの。色々な人とお話しするのが好きなのに。王妃になったらそれは出来なくなってしまうの?ジョルジュとも会えないの?」


 ジョルジュは笑う。


「私はいつでも神殿におりますよ。」


 ちょっとしたことで愚痴を言いたくなってしまう事に自嘲した。


「…そうね。さぁ。お仕事、がんばりましょ。」

「はい。」

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