第136話 煩う 終

「形だけの王妃など俺には不要だ。」



∴∵



 陛下は泣いた私を暫くの間、抱きしめてくれていた。背中を撫でている手は温かくて心地良かった。


「陛下、もう大丈夫です。」

「落ち着いたか?」


 里桜は頷いた。そして、まだ震える声で話す。


「私、病にかかっていたんです。世間で言う恋の病です。」


 レオナールは唖然としている。


「恋煩い、です。」


 里桜はレオナールがあまりに呆けているので、笑ってしまった。


「思い悩んでいたんです。一人で。だって陛下との関係を受け入れれば、その周りにある大きなものも一緒に付いてくる。それに怯えてしまっていました。」


 レオナールはいつの間にかまた里桜の手を取っている。里桜は座り直して、片膝立ちしているレオナールの正面を向いた。


「私らしくなかった。ずっと私の答えは出ていたんです。陛下はその事に気が付かせて下さいました。」

「…。」

「悪いものは全て、さっきの涙と一緒に流しきってしまいました。陛下、私も陛下のことを愛しています。」



∴∵



 ロベールの王都の屋敷タウンハウスは王宮から馬車で十五分ほどの所にあった。


「ここが、リオの部屋だ。」


 中に入ると、落ち着いた色調のローズピンクの壁紙にオーク材の家具が配置されていた。


「どうだ?」

「とても。素敵です。私の好みにぴったり。」

「そうか。良かった。…実は壁の色や、使う調度などは私では分からないから、リナやアナスタシアが全て仕切ってくれた。」


 里桜はロベールに笑いかける。居室に浴室と化粧室、それに寝室と見て回る。


「私も、二人で暮らすことには慣れていない。これから少しずつこの生活に慣れていけば良い。」

「はい。お養父様とうさま。」

「では、夕食までゆっくりすると良い。」


 ロベールは部屋を出て行った。里桜は居室にあるソファーに腰を下ろした。リナがハーブティーを出した。


「私が引っ越すことで沢山の手間を掛けてしまったのに、お屋敷の方々が思ったよりもずっと好意的に受け入れて下さって、少し驚いちゃった。」

「ロベール様は独身でいらっしゃいますから、女性がこの屋敷にいたことがございません。妙齢の女性がいれば、催し事も出来て、屋敷が華やぎますから。」

「しかも、リオ様は王妃となるお方ですから。次第にこの屋敷は賑わってきます。皆様それが嬉しいのではないでしょうか。」

「使用人は多少の手間がかかる出来事があるくらいの方が、張り合いがあるのだと思いますよ。」


 今日は第二側妃アリーチェの懐妊祝いの遊宴会の日だった。これで、国民にも懐妊の報せが届くことになっている。世間では救世主である利子が討ち死にをしてしまった事で、少し暗い雰囲気になっていた。これで少しは明るくなれば良い。里桜はそう思おうとしていた。

 里桜がお茶を飲んでいると、ドーンと大きな音がした。アリーチェ妃懐妊の為の祝砲だ。里桜は気にしないそぶりで、本を開いた。

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