第122話 利子と里桜 2
暗い何もない空間に、里桜は漂っていた。痛いや、苦しい、悲しいなんて感情もなく、また自分は気を失ってしまったのだと思った。いつもならここで‘神’が来るのだけど…。辺りを見回すと、利子が縮こまっていた。
「としこさん?どうしたの?」
利子は勢いよくこちらを見た。
「なんで?あなたまでいるの?まさかハルピュイアにあなたも捕まった?」
「ううん。ハーピーは陛下が退治して、としこさんも陛下に助けられたよ。」
「そう。」
「としこさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…あのメモ書きにあったことは本当?」
「メモ書き?」
「ハーピーの指南書に挟まっていたの見たの。私を貶める為だけにハーピーを創ったの?」
「それね…自分でも分からないの。自分でね、言うのもおかしな話なんだけど…私決して悪い人間ではないの。だけどね、あの世界に行ってからどうしてか感情がコントロールできなくて。悔しい思いしたら、倍にやり返してやるって思うし、嬉しいと思うと自慢したり誇示したりしたくなるの。誰かに裏切られると思うと、だったら先にやってやろうって思うし。自分で自分の行動が分からないの。ただ感情の振り幅が広すぎて、もう手に負えないの。」
里桜は利子の表情から、本気の怯えを感じる。
「だから、結界を傷付けた事も、森で火を放った事も、ハルピュイアを喚んだ事も、自分がやった事だと分かっているのに何でそんなことをしたのか、自分でも説明が出来ないの。どうしよう。りおさん。私、沢山の人を傷付けたのに、きっと意識を取り戻したらまた同じ事をしてしまうかも。もうそんな事したくないのに。」
里桜は縮こまって座っている利子の背にそっと手を置く。
「りおさんはこの世界がどの物語の世界か知っているんでしょう?だから、私の企みが全部分かってるんでしょ?私、この後どうなっちゃうの?やっぱり処刑?でもこの後もう一度この世界でやり直しの人生を生きられるとか…ねぇ、何か教えて。私はどうなるの?」
「ごめん、としこさん落ち着いて。言っていることがちょと分からないんだけど…私には、予言とか予知夢とかの力はないよ。」
利子は里桜の服を掴む。
「どうして、教えてくれないの?もしかしてりおさんこそ人生をやり直しているの?この世界で生きるのが二回目とか?前回は私に殺されたから、この人生では私のことを殺そうとしているの?」
「何を言ってるの?やり直しって何?」
里桜は利子の手を握る。そして、意識して少しゆっくりめに丁寧に言葉を話す。
「落ち着いて、としこさん。としこさんは、私がこの世界の事を本当は何でも知っているって思っているの?」
利子は頷く。
「ごめん。私も何にも知らないの。知らないから、でももう日本へは戻れないって事だけは分かったから、必死に生きてきたの。この世界に順応しようと思って。としこさんの知りたい何かは、私じゃ分からない。ごめんね。」
「だって、りおさんは最初っからこの世界の字も書けていたでしょう?私は勉強して覚えたのに。」
「私は、その代わり日本語を書けなくなったんだよ。メモ書き見て日本語で書かれていてびっくりしたの。」
「そうなの?」
「うん。私たち、一緒に
里桜は気を失う前、利子の治療をした。そして、利子の魔力も命の危機を脱する所まで回復させたのに意識は戻らなかった。何故だろうかと考えていたところで急激な睡魔に襲われ意識を失っていた。利子が意識を取り戻さないのは、多分本人がそれを恐れているからだろう。
「そうか…ねぇ。変なことを聞くけど、ここにいる間、私以外の人と話した?」
利子は首を振る。
「もしかしたら、この後‘神’だって名乗る人が現れて色々説明をされるかも…。」
「えっ?神?」
「変な話に聞こえるだろうけど、そもそも魔法のある国に来ている時点で奇想天外だから、疑わないで話を聞いてやって。それで何かわかるかも。」
利子は力なく頷く。
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