第116話 創造する者と破壊する者 2

「そうか。被害状況は分かった。治療の出来る者への処置は済んだのか?」

「アルバート様が来て下さり、治療をして下さっています。」


 エヴラールの明確な説明をじっと聞いていると、


「リオ様がいれば…外遊中にこんな事になるなんて…時が悪い。」


 何処かの騎士か兵士が独り言の様に言った。


「リオがいなくとも大丈夫だ。案ずるな。」

「何か策がおありで?」


 エヴラールが問いかける。


「いいや。リオの様に奇抜な発想はないが…トシコ嬢は?最後に目撃されたのが、ハーピーに連れ去られるところだったのだな?」

「はい。目撃者に聞いたところによると、その時既に意識がなかったようです。」




「本当にお世話になっても良いのですか?」

「あぁ。ちゃんと話をしてあるし、侍女がいないんじゃ不便だろう。」

「いいえ。ご飯も一人で作れますし…私、元の世界では一人暮らしでしたから。多分大丈夫だと思うんですけど。」

「君の逞しさをすっかり忘れてたが、気にするな。母は世話好きで、君が来るのを心待ちにしている。」


 クロヴィスと離宮の南棟の廊下を歩いている。ここはいくつかある離宮の一つで、シャルル前王の後宮として使われていた。今もシャルルの妃たちがそれぞれの棟に住んでいて、東棟には王太后も住んでいる。


「確か、宰相は四人兄妹とお聞きしましたけど。」

「あぁ。同腹は姉が一人に妹が二人いる。全員嫁いで、今は母だけが住んでいる。」

「宰相のご家族は?」

「普段は公爵家の領地に住んでいる。今は社交シーズンだから、王都にある屋敷に。妻もこちらには良く顔を出すから、そのうち顔を合わせることもあるかもしれないな。」

「この状況ではご家族が心配ですね。」

「まぁ。護衛の騎士もいるし…。」


 クロヴィスには珍しく歯切れの悪い話し方に、本当に家族が心配なのだとわかって、わざわざ言葉にしてしまった自分を悔やんだ。



 護衛の騎士は、クロヴィスを見ると、姿勢を正して室内に声をかける。返事が聞こえ、騎士が扉を開いた。クロヴィスに促され中へ入ると、光り輝く様なゴールドブロンドの女性が立っていた。


「母のイザベルだ。」


 イザベルはとても綺麗なカーテシーを披露する。


「お初にお目にかかります。Iris様。私、イザベルと申します。以後お見知り置きを。」

「お初にお目にかかります。イザベル様。丁寧なご挨拶有り難く存じます。Irisは私には勿体なく、身に過ぎる名でございますので、里桜とお呼び下されば嬉しく存じます。」


 里桜はカーテシーをしてイザベルへ挨拶する。


「では、リオ様と呼ばせて頂きますわね。さぁ、こちらへどうぞお座り下さい。」


 里桜はにっこりと笑って、勧められたソファーに腰掛ける。


「クロヴィスがお話していた印象とは随分と違う様だけど?」


 イザベルは里桜の隣に座るクロヴィスに視線を送る。その視線の悪戯っぽさは、年齢の割に少女の様な若々しさを感じさせる。


「彼女の面白さは、何かが起こってからじゃないと分からないと思うよ。普段は大人しくしているから。それじゃ、母上。彼女を宜しくお願いします。」

「えぇ。わかったわ。陛下の大切なお方なのでしょう?心込めてお世話させて頂くわ。」


 里桜が反射的にクロヴィスの方を見ると、イザベルと同じように悪戯っぽく笑って部屋を出て行った。




 天馬に乗ったレオナールは上空を飛んでいた。これ以上時間が過ぎると辺りは暗くなり、ハーピーや利子が目視出来なくなる。

 確かに、高く聳える岩山の頂にハーピーはいる様だ。しかし、利子の姿は見ることが出来ない。だが、これ以上は待つことは出来ない。

 ハーピーの出すつむじ風のせいで、街は混乱している。しかも白の魔力で発生させたつむじ風は結界を所々傷つけている。


「日没までの時間も残り少ない。」


 レオナールは大きく旋回しハーピーの後ろから静かに近づいた。

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