第115話 創造する者と破壊する者 1

 レオナールがブラウェヒーモに着くと、人の口から出ているとは思えないような、異常な鳴き声が響き渡っていた。

 兵士や騎士たちはハーピーが発生させるつむじ風に掠われない様に少し距離を取って陣を張っていた。


「陛下。何故この様なところに?供人も付けずに。」


 現状報告の為に一時的に王宮に戻っているルシアンとイレール・オベール副団隊長の代わりに現場で指揮を取るエヴラール・ボランは、諌めるように言う。しかし、レオナールは全く気にも留めず、


「ハーピーは?」


 エヴラールは小さくため息を吐く。


「今は、キリップ山の山頂におります。騎士や兵士が近づくとつむじ風を発生させ、近寄ることも出来ません。」

「トシコ嬢は?」

「ハーピーは上半身は女性なのですが、下半身はまるで鷹や鷲のように鋭く大きい爪を持っています。その爪で捕らえられ、それ以来姿が見えなくなってしまいました。」

「そうか。」




「リオ様、心配ですか?」


 神殿の執務室でシドと紅茶を飲んでいる。待つ方はこんなにも時が長く感じるのだと初めて知った。これなら自分で行った方がマシだ。


「待つ身は辛い。ご自分で前線に行った方が楽でしょう?でもアニアなどはリオ様の手紙を見て、胸をなで下ろしているでしょう。」


 そうか、二人はいつもこんな気持ちで私を待っていてくれたんだ。リナやアナスタシアに沢山こんな気持にさせていたんだな。


「陛下は兄弟の中でも剣の腕が立つお方です。無事に帰っていらっしゃいます。」


 その時、ノックが聞こえて顔を覗かせたのはレイベスだった。


「レイベスどうした?」

「失礼する。」


 入ってきたレイベスの手には、古そうな本があった。


「これは、トシコ様が最後に読んでいた本なのだそうだが、魔術がかかっていて本を開くことが出来ないのだ。侍女が関係があるかも知れないと、神殿へ持って来たが、私でも開くことが出来なかった。」


 シドが手を差し出すと、レイベスは本を渡す。シドはそのまま向かいに座る里桜に本を手渡す。

 それは、転生してきた当初に見つけて如何にも魔術書みたいな雰囲気で開いてみたが、伝説上の生き物を創り出す指南書だと気がついて読むのをやめていたものだった。


「この本なら、渡ってきた頃に少し見ました。図書室に埃を被った様な状態で置かれていましたから。その時から魔術はかかっていて、多分白以上の力がないと開くことが出来ない様になっています。内容は、大昔の渡り人が書きためたその国の古くから伝わる伝説の生き物を創造する指南書でした。それが、何故としこさんのお部屋に?」


 里桜は、その本を開こうとして、あるページに紙が挟まっていることに気がつく。そのページには‘ハルピュイアの創造’と書かれている。シドとレイベスはそのページに釘付けになる。しかし、里桜はメモ書きをじっと見る。


「ハルピュイアの召喚…人の魔力を食べる。」


 挟まれていた紙には日本語が書かれていた。古語を訳するのに手間取ったのだろう、所々抜き出しながら日本語でメモを取っている。


 どうして?私は日本語は読めても、書くことが出来なくなったのに。としこさんはどうして書けているんだろう? 


「何と?召喚?トシコ様が召喚したのですか?」


 自分が思っていたより大きな声を出していたことに、ハッとする。


「…ハーピーはとしこさんが創り出したのかもしれません。この紙に書かれているのは、この本の内容を私たちの住んでいた国の言葉で訳したものが書かれています。ただ、少し訳に間違いがあります。としこさんは創造術ではなく、喚び出す術だと思っているようですし…人の魔力を食べるとは理解しているようですが、ハーピーが食べた魔力を手に入れてしまうとは思っていないのかもしれません。」


 どうして…本当にとしこさんはハーピーに私の魔力を食べさせるために創ったの?このメモに書かれていることは本当なの?魔力を食べ尽くされたら死んでしまうのに…こんなにも私はとしこさんに恨まれていたの?

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