第114話 決断 終

「リオを借りていく。」


 そう言うと、里桜を肩に担いで庭の奥の方へ歩いて行ってしまった。



「ちょっと、陛下。陛下。頭に血が…もぅ、人を荷物みたいに…。」


 里桜は痛くない程度の力でレオナールの背中を叩く。


「国王を叩くとは、あの国で何を教わってきたんだ?」


 レオナールが里桜を下ろしたのは、いつもお茶をしているガゼボだった。


「どうして、陛下に虹の魔力が?」


 少し笑って、胸ポケットから長方形の紙を取り出し、里桜に見せる。


「見覚えがあるか?」


 それは、横浜の古本屋さんで買った本に挟まっていた、白い花の押し花があしらわれたしおりだった。


「はい。私のしおりです。どこかに挟んだままにしてしまったと諦めていたら…」

「この飾りの白い花は、虹の女神が初代王に渡したとされる幻白花ファントムブルームだ。」

「ファントムブルーム?」

「幻の白い花だ。この花には、持ち主の力が宿る。力を宿した花を渡せば、渡された相手にその力が分け与えられる。俺が貸した古記録に挟まっていた。」

「何でもない押し花に見えるけど…。」

「持ち主より力の弱い人間が見ると、白い花は輝いて見える…と建国神話では語り継がれていた。本当に存在するなど思いもしなかったが、実際にこの花がリオの魔力を俺に分けてくれたんだ。今の俺には虹の力がある。…だからきっと帰ってくる。」


 レオナールは里桜に近づき、そっと里桜の頬に触る。そして、微笑みながら耳たぶを触る。


「このピアスが、魔石なんだな。ガラス玉のピアスかと思っていたが、力を得てからは光を放っている様に見える。最初から持っていたのに、黙っていたのか?」

「だって、これは自分で買った物だったし、石って言われると、宝石とかよりも河原の石みたいなの思い浮かべるでしょう?あんなの貰ったら忘れるわけないと思っていたけど…買ったピアス用の石だなんて。」


 言い訳に一生懸命になっていて、レオナールがじっと見つめていることにも気付かないでいた。


「リオ。もし、俺に何かがあった時は、胸に入れたこのしおりをリオからジルベールに渡して欲しい。」

「それって…。」

「あぁ。ただ兄弟で俺が一番魔力が強かっただけで王の座に就いた。しかし、本来その能力を持つのはジルベールだ。リオがこの花をジルベールに渡せば、ジルベールに虹の力が与えられる。ジルベールが王になれる。」

「ヴァンドーム団長が黙って王座に就くと?」

「一苦労するだろうけどな。」


 笑っていたレオナールは急に真面目な表情をする。


「この花がどんな物なのか、リオがそれでどんな立場になったのか理解したか?」

「?」

「この花とリオさえいれば、王家の血が少しでも入っていれば誰でも王座に就けるという事だ。リオがこの花をどうやって手に入れたのかは分からないが、この花は存在してはいけない花だ。幻の花の存在を知られれば、面倒なことになる。この事は誰にも言うなよ。リオの身が危ない。」


 里桜は静かに頷いた。


「心配ならちゃんと帰ってきて下さい。」

「あぁ。もちろんそのつもりだ。まだ、やり残したことが沢山ある。」


 レオナールは笑って、王宮に戻っていった。




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閑話集 2話 更新しました。

「不遇の王子」「ジルベール十六歳」 です。


また、前回も閑話集の更新のお知らせを書き忘れていました。

同じく2話。「シャルル王」「アデライト王妃」です。

度々、申訳ありません。


よろしければ、お立ち寄り下さい。


 赤井タ子

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