第101話 社会見学
「いっぱいある。」
醤油蔵直営の店に入り、店内を物色する。そのうちの一本を手に取る。エシタリシテソージャの言葉で‘醤油’と書かれている。他にも熟成したもの、味噌なども売っている。
「ミリンもこちらで作っているのですか?」
「はい。」
里桜は次々に商品を手に取る。見て回る里桜に、店主は丁寧に説明していく。
「ここは、百年前にこの国に渡っていらしたキヨシ様の作った醤油蔵が元となった商会です。キヨシ様の伝えた数多くの調味料が売られています。製法も伝えられたままを守っており、熟成させる樽も杉を使い、
百年前のきよしさん、醤油に煮干しの作り方も知っていて、樽まで作れる人だったの?何者だろう。百年前は大正時代か?その時に大人ならば、明治生まれか?家でお味噌は作っていたりしたんだろうけど…何していた人なんだろう。気になるけど…ひとまず感謝。きよしさん、あなたのご苦労を心から労わせて頂きます。今はそれしか出来ないけど。
「それじゃ、買ってきます。」
里桜の両腕に醤油と味噌に味醂、昆布、煮干しが抱えられている。
「そんなにお買いになるのですか?」
ベルトランは驚いている。
「醤油と味噌は全く違う調味料で、この昆布と煮干しはスープストックの材料になるの。乾物は日持ちするから多めにね。それにどれも料理を作るのには欠かせないんだよ。」
「醤油味は食べましたが、味噌もそんなに美味しいんですか?」
「初めて食べる人には独特の風味かも知れない。そのまま舐めたりすればかなりしょっぱいけど、食事にはこの味噌で味を付けたお味噌汁が欠かせないの。元、住んでいた国では色々具材を変えて毎日飲むの。こちらでは、スープストックを鶏にしたり、牛にしたりと変えるけど、スープストックや味噌はその家庭でほぼ決まっていて、そこは変らず具材だけが変るの。」
「毎日同じスープで飽きませんか?」
「私はお味噌汁が好きなので飽きないな。具材を変えれば味も変化が出るし。でもご家庭によっては、色々な国のスープを日替わりで出す家もあると思う。戻ったら今度お味噌汁作って差し入れるね。あっじゃあ、お味噌はもう一袋買おう。冷凍の魔術掛けとけば良いし。」
「増やすんですか?」
「お味噌はお味噌汁以外にも使い道はあるから。」
「リオ様、醤油を作る工程は見学出来ずに、申訳ありません。」
謝るリュカの顔が子犬に見えてくる。
「そんな事、気にしないで。醤油を安く入手出来ただけで私は大満足。それに醤油造りの職人さんだって、公爵家の子息が見学に来たらビックリするでしょ?ここの国なら尚更。でも、色々と手配してくれて本当にありがとう。発案から出発までに時間がなかったのに。」
「いいえ。」
「それじゃ、お会計してくるね。」
∴∵
「日本と同じように田植えをするのね。」
「そうなのですか?」
「私もね、実は直接は見たことがないの。直接こうして見たのは初めて。日本の東京って街の出身なんだけど、木々はない所だったから。田畑も近所にはなくて。」
「そんなに乾いた土地なのですか?木々が全く育たないほど?」
「うーん…乾いている訳でもないの。木々は学校みたいな公共施設の敷地か、自然を楽しむための公園でしか見なかったかな。辺りは建物ばっかりだった。でも、今みんなが想像しているよりは、緑があるかも。」
里桜は自分自身変なことを言っていることに気付いて、少し笑ってしまう。
「リオ様のお育ちになった所はどんな所なのでしょう。想像も付きません。」
「では、農家では直接お米を買うことが出来ますから、買いに参りますか?」
「そうね。」
∴∵
「ごめんね。ベルトラン。お米たくさん買ったから重いでしょう?」
「いえ、四歳の甥よりもずいぶん軽いです。しかも、米なら腕の中でじっとしているし。」
ベルトランは堅苦しさのない笑顔を里桜に向けた。ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンを発って一ヶ月近くが経っている。最初こそ里桜に対して警戒心が露わな態度を取る騎士が多かったが、今では緊張もほぐれ、友好的な態度で接してくれる騎士も増えた。
「さぁ。離宮へ帰りましょうか。今夜は舞踏会だし。」
「リオ様にはお披露目の舞踏会以来の出席でございますね。」
「あの時も気持ちが重かったけど、今回はそれ以上に気が重い。」
里桜は困った様に笑った。
「舞踏会が終わりましたら、プリズマーティッシュへ帰れますから。」
「そうね。自分へのお土産も、皆へのお土産も買えたし、舞踏会で、外交特使として及第点もらえるようになれば良いけど。」
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転生聖職者の楽しい過ごし方101話
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