第102話 舞踏会 1
姿見の前で、里桜は喜びたい様な、何かくすぐったい様な気持ちになった。
今回の舞踏会のために里桜が用意したドレスは、リナとアナスタシアが一番似合うとお墨付きを出したアプリコットピンクのドレスだった。ロールカラーにビスチェの部分には同色の糸で繊細に刺繍が施されていて、スカート部分は逆に大柄な花を刺繍している。里桜の目にはそれがクラシカルでそしてとても素敵に見えていた。
「準備は、整いましたね。」
グローブをはめている里桜の髪の毛を少しだけ整えてリナは言った。髪は編み込みでアップに整えられ、ドレスと同じ色のリボンがあしらわれている。
最後にチョーカーとイヤリングを付ける。これは今回もアナスタシアから借りた物だ。日本にいたままなら、こんなドレスは結婚式以外に着る機会などなかっただろう。
「今夜はリュカ様がエスコート致しますので。」
「はい。」
「では、アナスタシアさんの用意を手伝って参ります。」
「お願いね。」
リナはにっこりとして部屋を出た。
∴∵
里桜は馬車を降りるなり、重いため息を吐いた。それを聞いてリュカは笑う。
「参謀から、リオ様をエスコートする時は、笑える話を用意しておかないと、ずっとため息を吐いてるぞって言っていましたけど、本当にずっとため息吐いていらっしゃいましたね。」
「昨日の午餐会や茶会を思うと、今日の舞踏会も気が進まないなと思ってしまって。」
里桜たちの後ろを走っていた馬車から、エスコート役のフレデリックとアナスタシアが降りてきた。
「ようこそ御出下さいました。渡り人リオ様。ご案内致します。」
ウルバーノ王子の侍従の一人がわざわざ出迎えに来た。昨日との違いに驚き、思わずリュカの方を見ると、リュカも首を傾げた。王宮の従僕が一番前を歩きホールまで案内をされる。
部屋に入った瞬間に一斉に人々の視線が里桜たちに注がれる。
暫くすると、音楽が流れ始め、各々ホールの中央へ進んで踊り出した。里桜もリュカのエスコートで踊り始める。
舞踏会は二回目。あれからもコラリー夫人とのダンスレッスンは続けているおかげで、一回目に比べれば舞踏会自体への緊張はなくなったが、他国の貴族社会からの洗礼に里桜の気持ちは少し疲れを感じている。
「リオ様、本当にこの度は色々と申訳ありませんでした。」
「何度も言っているけど、リュカの謝る事ではないよ。陛下やヴァンドーム団長も何度も爵位を貰ってから行けと仰ってくれていたの。それを断わったのは私だし。外遊のためだけに叙爵って言うのもおかしな話だし。」
「しかし、それにしても。」
「私ね、元の世界でも、異国に旅行なんて行ったことがなかったの。」
「えっ、リオ様の世界では今よりずっと高速で移動出来る乗り物があったのですよね?」
「そうね。天馬よりずっと早く飛ぶ乗り物もあるよ。一万㎞以上の距離を十三、四時間くらいって言ってたかな?行ったことないから、詳しくは分からないけど。」
「エイスクルプチュルは四万㎞以上を一日で移動出来ますよ。」
「それ魔獣だし、乗れないから。しかもそんなスピードで飛ばれたら間違いなく死んじゃうよ。もっと安全に優雅に旅行はしたいよ。」
四万㎞って地球一周だよ?それ一日で飛ぶって…自転のスピードじゃん。危険すぎるよ。絶対イヤ。
「天馬も魔獣ですし、エイスクルプチュルも気性が大人しいので乗れない事もないと思いますが。」
「私はこの前の討伐で荒れ狂ってる姿しか見てないし。そんな話じゃなくて、二十四の人生で初めての国外旅行だったの。国外旅行の良いところは、色々なハプニングに遭いながらも、その土地の風習に触れたりすることでしょ?人によってはそう言った事を旅の楽しみの第一にする人もいると思うの。特に国外旅行が好きな人は。私は初めての国外旅行で、醍醐味を十分に味わえたって事にならない?」
里桜が笑うと、リュカはいつもの様なはにかんだ笑みを見せる。
「リュカが笑った。」
暫く踊っていると、一曲目が終わった。壁際に二人で向っていると、ちょうど良くアナスタシアたちとも会った。
「今回の外交は本当に失敗しちゃった。陛下に何とお詫びすれば…。」
「リオ様、お気になさることはございませんよ。」
「ルカ。」
呼び止める声に、全員で振り向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます