第97話 謁見 1
通された控えの間は、目にも鮮やかな赤色の絨毯が印象的な部屋だった。
そこに、リュカと三大伯爵家のフレデリック、アルフォンス、コンスタン、護衛の騎士はヴァレリーそして里桜とアナスタシアがいる。里桜もリナやアナスタシアの手によって立派なご令嬢に見える様に整えられている。
里桜はやはりこんな時緊張で顔が強張っている。その横でアナスタシアは優しく微笑んでいる。
「やっぱり、こんな時は私よりも余程アナスタシアの方がお嬢様に見える。お嬢様だから当然だけど。」
自嘲気味に里桜が話すと、口を開いたのはヴァレリーだった。
「リオ様、自信をお持ちください。この外遊に出て半月以上、私共は様々なリオ様の姿を拝見しました。リオ様は既に立派に人の上に立つ者のお顔になっております。」
そう言って、力強く頷いて見せた。
「ありがとう。ヴァレリー少し気持ちが落ち着きました。」
里桜は笑って見せた。
そこにウルバーノの従者が声をかけた。
「いよいよね。」
アナスタシアと見合わせてひとり部屋を出た。
∴∵
王子が待っているという部屋に通されると、一段高くなっているところに天蓋が付けられていて、薄い布が幾重にも重なっている中に薄らと人影がある。それは数年前にテレビで見た高御座を思わせる造りだった。
「渡り人、リオ。殿下へご挨拶を。」
「本日は、王宮へお招き頂きましたこと、深く感謝申し上げます。」
「渡り人、リオ。顔を上げるが良い。」
里桜が挨拶をすると、ウルバーノ王子の従者が発した。
「エシタリシテソージャ王太子ウルバーノ様です。」
そう言われても、目の前に見えるのは布で王子は全く見えない。しかも挨拶しろ、顔を上げろ、おまけに紹介。全てが従者の声でまだ里桜はウルバーノの声を聞いていない。
「渡り人歓迎午餐会までゆるりと過ごされるよう。」
「数々のお心遣い、感謝申し上げます。」
事前に言われていた様に、それだけ言って里桜は部屋を出て行った。
元いた控えの間に戻ると、心配そうな顔のアナスタシアに出迎えられた。アナスタシアを安心させる様に里桜は笑って見せた。
「挨拶の言葉も、行動も全て先方の言う様に出来たと思うけど。」
「リオ様、色々とプリズマーティッシュとは違うので、戸惑われることもあると思いますが…。」
リュカが申し訳なさそうに言った。
「国が違えば風習や習慣が違うのは仕方のないこと。それを経験するために外遊してるんだから。そもそも私、無断でこっちの世界に飛ばされちゃってるんだから。今更よ。」
里桜が微笑むと、リュカも笑った。
∴∵
宿泊はモナハドール離宮と呼ばれている迎賓館だった。そこはリナも一緒に泊まることを許されていた。
宿泊の部屋も貴人用の部屋に通されたし、迎賓館の使用人から嫌な印象を受けてもいない。
「お茶のおかわりでございます。」
リナが里桜にハーブティーを差し出す。
「リナは明日、殆どここでの留守番になってしまうけど…。」
「はい。私のことはお気になさいません様に。」
「お昼には王太子主催の午餐会が、その後には王太子妃主催のお茶会が予定されております。」
「はい。頑張ります。」
∴∵
「リオ様。こちらは、ピエラントーニ伯爵です。」
「初めまして、渡り人殿。私は外交副大臣をしておりますアデルモ・ピエラントーニです。」
「初めてお目にかかります。私はプリズマーティッシュから参りました、渡り人の里桜と申します。以後お見知りおきの程お願い申し上げます。」
「顔をお上げなさい。渡り人殿。」
「有り難く存じます。ピエラントーニ様。」
里桜が顔を上げると、ピエラントーニと紹介された人は、既に里桜の方ではなくリュカの方を見ていた。
「リュカ様が帰国されると聞きまして、本日は罷り越しました。今回はどれほど滞在されるのですか?」
「私は、今回リオ様の外遊の案内役で同行したまでです。」
「それは、なんとお寂しい。リュカ様、ご紹介頂けませんか?こちらは、カンバーランド公爵令嬢だと伺いましたが?」
「えぇ。こちらは、リオ様の侍女でアナスタシア・カンバーランド公爵令嬢です。」
アナスタシアはにっこり笑うが、声は発しない。すると、ピエラントーニもにっこり笑うだけだ。
エシタリシテソージャでは五爵の序列が物を言い、それは他国の爵位でも関係なく、伯爵家の現当主であるアデルモも公爵家の人間である、リュカやアナスタシアより格下の扱いになる。よって、アナスタシアが話しかけなければ、アデルモが話しかけることは出来ない。
「リュカ様、そちらにいらっしゃるのは、外務大臣のオードラン伯爵のご子息では?ご紹介頂けませんか?お父上のダニエル様とは何度かお会いしてお話したことがございます。」
リュカは言葉に詰まる。
「リュカ、気にしないで頂戴。ご紹介して差し上げて。」
里桜はにこやかにリュカに話しかける。
午餐会前の大広間での歓談で、リュカがエシタリシテソージャの大臣たちを紹介してくれたが、全員が里桜の存在をいない者とし、アナスタシアや三大伯爵家の子息たちとの関係作りに必死になっていた。里桜が限界を感じていた頃、やっと食堂へ通された。
里桜の席に言葉を失ったのはアナスタシアだった。
「さすがに、これは…。」
里桜に用意されたのはアナスタシアやリュカ、フレデリック、護衛役のヴァレリーよりも下座の末席だった。
「気にしないでアナスタシア。フレデリックも、ヴァレリーも早く席に行きなさい。午餐会が始まらないから。」
渋るアナスタシアたちの背を押して、席へ向わせた。こうして、宴は始まった。
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