電子レンジの正しい捉え方

ぐぐ

 

 普段、何気なく使っている電子レンジですが、温めが終わったことを告げる、チン! は快音で、とても爽快な気分にさせてくれますよね。

 そのあまりの音の良さに、「レンジで温める」が「チンする」にすり替わってしまいましたし。

 この電子レンジ同様、パソコンも各家庭に一台という風に普及しました。が、「キーボードをカチカチ叩く」が「カチる」などにすり替わるという現象は起きなかったわけで、ほんと「温める」と「チン!」のぴったり具合には恐縮するばかりです。

 けれど――。時にあまりにも高い完成度は酔いをもたらします。「チン!」までは確かに抜かりがない。しかし、なんですか。その後のドアを閉める音が、「ガチャン!」とは!

 あ~あ、クルクル綺麗に回ったあとに着地でコケちゃった。

 きっと作り手は、「チン!」のデキのよさに酔ってしまったのでしょう。そのために詰めが甘くなってしまい、ドアを閉める音が大きいままに。

 これ、作り手だけならまだしも、使い手もチンに酔っているようで、いつまでたっても誰も指摘しないんですよね。細かいことですけどね。それに現代はストレスフルな社会、ある程度は酔いが必要であるし、目を瞑ることで物事が前に進むこともある。

 でも、このチン酔いの深みにはまってしまうと、怖い末路が待っている気がします。

 例えばストレス満載のキャリアウーマンが、帰宅途中の電車内でこの音をリピートして聞きはじめるとかです。隣席にいる女性の耳のイヤホンから音が漏れてくるわけです。

 チン、チン、チン、チン、チン……。

(むむむ、夜の車内で二人っきりとかだと、なかなか怖いぞ)

 同じくストレス満載の旦那がヤケを起こし、嫁に怒鳴り散らして、

「もっとチン寄こせ! 借金してでもチン持ってこい!」

 とチン音を要求ということも起こり得るかもしれません。

 つまりアル中ならぬチン中です。というのも快音は快感ですから中毒性も多少はあるわけで、先行き不安な面もなくはなさそうです。

 ですから、ここら辺でしっかり間違いを正し、チンを正しく捉える作業をしておいた方がよいでしょう。

 これが、その正しい答えです。

 

 電子レンジの正解

 ①冷えた食材をレンジの中に入れる

 ②ボタンを押して温め開始

 ③温め完了となり、「ピー」程度のそこそこによい音が発生

(ゴールではないので、そこそこの音)

 ④レンジの扉を開け、温めたモノを取りだす。

 ⑤扉をきっちり閉める。その瞬間、快音の「チン!」だ!

 

 大事な所を繰り返しておきます。

 レンジの扉を閉める、ここで、「チン!」だぜ!

 

 今のままですと扉を閉める際の「ガチャン!」が〈最高音量〉であり〈最後の音〉です。

 となると「レンジでガチャン!」が主役扱いで、「レンジでチンする!」は二の次といってよいと思うのです。

 ここまでお読みになられて、いかかでしょうか、チン酔いは覚めましたでしょうか。チンとガチャンの本来の関係も捉えれましたでしょうか。

 またですね、このガチャン音、温めるという作業内容以上の迫力があるんですよね。

 そのために、


 スナップを利かして閉めるお母さん そのドヤ顔が一番HOT 


 というような、滑稽な短歌が似合ってきそうです。

 あの音、ゴングでもいいぐらいの迫力ですよ。

 おそらく開発者は吉川英治が好きで、『宮本武蔵』の豪傑さにやられていたのでしょう。

 けれども山田風太郎の『くノ一忍法帖』を愛読していれば、

 ――忍び――

 という発想を足がかりに、また違ったレンジ文化を作れていた気もするのです。

 この場合、温め完了を告げる「チン!」は無音です。音を立てないのが忍びですから。

 そしてドアの開け閉めも「シーン」との静音設計。

 コンビニの店員の、

「お弁当温めますか」

 は、

「――しますか」

 と、かなり省略した形になるはずです。

 またその静けさゆえ、


 気づいたら温めていたお母さん その老け顔が一転COOL


 というような、静的な短歌が詠めもするわけで、こちらはこちらで違った趣向があると思うのですが、さてあなたはどちらが好みでしょうか。



 追記 

 1945年に電子レンジを初めて発明したパーシースペンサーは海軍に入隊している。終戦直後、珈琲豆を炒る機械としての電子レンジを発明した中島茂は海軍との共同研究あり。

 どうやら電子レンジの開発者は宮本武蔵というより海軍との関わりが深いといえそうです。でも、巌流島も海戦だから。強引。チンでなくガチャンということで。

   

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