其の參 鬼無 太伽羅は手を伸ばす
「
粋筋の女性が、太伽羅の羽織りにそっと手を掛け、しなをつくりながら笑うのを少女は店の片隅に立ち、手拭い片手に無表情のまま見ている。
「最近になって飼い始めた猫が、
「……誰が、猫だよ」
二人きりになった店の中で、じろりと
着物の中に重ねた詰襟のシャツを覗かせ、袴を着けたその書生姿は、中性的な容貌も相まって誰もそれが少女とは気づかなかった。
少女とて、ゆくゆくは大層な美人になりそうであったが、何しろ
あの日、少女の返事も待たずに、そうと決まれば先ずは着る物を、と用意しようとして立ち上がった
長さも
探しに来る者は居ないとしたが、果たしてそうなのかどうか。尋ねても何も語らない少女には、不明なことが多過ぎた。
明るい髪色に不思議な目の色。
特徴が有り過ぎるのも問題だった。
探す方は
中性的な容貌も薄い身体も、男装ならば少女を隠すには使えると思った
翌る日、通いの手代に遠い親戚の男の子を預かったことにして紹介してみれば、突然のことに不信と驚きを隠せないでいたものの、目の前の可愛らしい男の子がよもや少女であるとは疑ってはいない様子で、
「それにしても、この店は奇妙なモノばかりだな」
少女が手拭いでもって
「ああ、貿易に力を入れるため店を退いた叔父のおかげで、舶来品の古道具が多いからね。これらの品物は実のところ華族さまに好評なんだよ。
「おれが言いたいのは……そう云うことじゃないんだよね。あんた、この店に居て何にも感じないわけ?」
「あんた、じゃなくて太伽羅さんって呼ばれたいな。君のその喋り方……あ、いや、やっぱり良いや。で、何を感じるって?」
「……この店ン中、
「さて、ね。どうしようもしないかな」
「信じるのか? いきなりこんなこと聞かされて? それに……怖くないのかよ」
「君が視えると云うなら、居るんだろう。初めてこの店に抱えられながら入った時も
「視えない癖に知った口で、何を。だったら、おれは? 気味の悪いこの色の目で、そんなモノが視えると知っても怖くないのかよ」
「怖い? 気味が悪い? 君のことが? その目の色が? 馬鹿だな。こんなに綺麗なものを私は、知らない。そう……この目を初めて見たときから」
睨みつけるように
すっと距離を詰めた
「……吸い込まれそうだ」
絡み合う視線のその一方で、迷いなく距離を縮める
ゆっくりと眼鏡が外される。
「何時迄も、見飽きることはないな」
吐息が混じる優しいその声を、少女が初めて耳にした途端に、何かが胸の中で跳ねた。
泣きたくなるような知らない痛みに、顔を背けようとした少女の顎を
「……ッあ」
美しい化けモノだ。
この店の中には、化けモノしか居ない。
その時――。
ガタン、と大きな音に二人同時に我に返る。音のした方へと仲良く
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