其の貳 鬼無 太伽羅は涙を滲ませ笑う
店の奥の上り
自身の身体を見下ろせば、子供を抱き上げた時にでもついたのだろう白いシャツも汚れが目立つ。羽織りの袖を、そっと顔の前へと持ってくれば、その臭さに堪らず羽織りを脱ぎ捨てた。
「……やれやれ、まずは風呂だな」
これがこの下男の、承知しましたという返事である。
この下男の扱いに慣れない頃の
風呂の支度が整ったと知らされ――実際に下男が言ったのは「もたもたしてりゃあ、せっかくの湯も冷めちまう」という大きな独り言だったが――
それは見紛うことのない、烙印であった。
「成る程……商品とは、そういうことか」
何はともあれ、この酷い臭いと汚れを落としてからだと、洗い石鹸を片手に着物を全て剥ぎ取り露わになった身体に
痩せた背中、肋骨が薄く浮いた身体にそぐわない、ふっくらと小さな柔らかい胸。視線を下の方に向ければ、無論……。
目の前にあるのは未熟な少女であったと知ったものの、女性の身体を見たのは初めてでも無いし、相手は気を失っているのだからその内に、と束の間の躊躇いを押しやり
「……で、あんたは何がしたいの?」
素肌の上に、
それまで気を失っていた少女は、食事の支度の音と匂いで目を覚ましたかと思うと、飢えた獣のように目の前に用意された膳にかぶりつき、暫く脇目も振らずに口の中へと粥を流し込んでいたが、ひと息ついたところでその言葉を口にした後は、また途切れなく粥を啜るのだった。向かい合う
粥を啜る音の合間に漬物を噛み砕く音が部屋に高らかに響き、
湯浴みを終え、
ざんばらに切られた髪は絹糸のようで、長かった頃はさぞやと思われ残念なものの、その色は茶褐色の日に透けると更に明るい色に見え、不思議な灰みがかった青い瞳と良く似合っている。
泥がついた牛蒡のようだった手足も、その泥や皮を
少女の身体を洗っている時には、こびりついた汚れを落とすのに必死で何も思わなかったのだが、こうして
「ハハッ。知っていて聞くなって? 分かってるよ。誰がしたか知らないけど手間をかけて汚れを落としたんだから、することは一つだよね。あんたみたいのは、汚い女は抱かないもんな。こっちだって食いもんの礼くらいは、してやるよ。ホラ食べ終えたから、さっさと始めてくれる? それと終わって放り出す前に、もう少し目立たない着る物をくれたら、良いんだけど。あんたの前に食いもん貰った人が寄越したのは、小さくて」
箸を置いた少女は言いながら膳を退かすと、ずいっと
吸い込まれるような灰みがかった青、その
「え? な、なにって……何? いや、ちょっと待った。そんなつもりで汚れを落としたんじゃないし。それに
そっと手を払い退けてみれば、されたことが信じられないという、顎まで外れそうに、ぽかんと口を開けた間抜けな少女の顔に
「ふはっ……ふふ、ふくくくッ」
同時に、それまでの少女の日常は身体を差し出すことが当たり前であったのだと、少し前に見た幼さの残る身体に刻まれた傷や、烙印のある背中を思い出すと、言い知れぬ何かが胸の
そんなことを思い涙を滲ませ笑う
「……どうせ行く当てもなく逃げているんだろう? 探しに来る者も居ないのなら君を、この店で雇うってのは、どうかな? もう少し人手が欲しいと思っていたんだよ。……私は、この古道具屋『鬼灯』の店主、
ひとしきり笑った風の
それを目にした
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