第10話「僕とカオルと妹と(後)」
「い…いもう…と?」
「そうだよ?前妹を養うためにバイトしてるって言ってたじゃん?それがヒナちゃんの事だよ」
「あ、その子が……」
カオルがくたりと僕の腕の中に倒れ込む。
「おっと……大丈夫か?」
「妹だったんだ……どうりで可愛いはずだ。だって先輩と血がつながってるんだもん、あ~安心した。妹か~~、妹ね…え、じゃあ休日に先輩と先輩の妹と一緒に買い物?なにそれ、大チャンスじゃん。もうこれ実質結婚する前の家族の顔合わせじゃん。はぁ~しあわせ~。先輩の腕の中いい匂いする~。」
カオルは腕の中でぼそぼそと何かを呟いて、しあわせそうな顔をしている。
こうしてみるとこいつ本当に女みたいだな。
「カオル?大丈夫か?」
「わわ、ごめんなさーーーい!!」
僕の腕の中からカオルが飛び上がる。僕としてもいつまでも男同士で抱き合ってるわけにいかないので助かった。
「それで、元気になったか?」
「は、はい!!とっても元気です!!さっきまでのは……そう!!低気圧!!低気圧のせいです!!」
「低気圧って……今日晴れだぞ?」
「ああ~~じゃあ高気圧のせいです!!たぶん!!たぶんそうなんです!!」
「まあ色々とツッコミどころはあるが、カオルが元気になったみたいで良かったよ」
カオルの笑顔を見て安心する。
「それでもうヒナちゃんとは大丈夫なの?」
「大丈夫です!!もう会いたいくらいです!!」
カオルが両手をグーにして熱烈にアピールしてくる。
「そ、そうか……じゃあ、ヒナちゃんはレディースの所にいるから迎えに行こうか」
「はい!!」
僕が歩くとカオルはカルガモのように後ろをちょこちょこと着いてくる。
こいつ……元気になったはいいけど、本当に大丈夫か?
しかし、その考えは杞憂だった。
「そのワンピ可愛いね。今ヒナちゃんが履いてる靴ととっても似合うと思うよ」
「やっぱり!カオルさんもそう思いますよね!!」
レディース売り場でヒナちゃんとカオルがワイワイと話している。
さっきまでのカオル……なんだったんだ?と思う程だ。なんなら僕が孤立しているほどだ。
「カオルさん?こっちとこっちだとどっちが似合いますか?」
「う~~ん、その二つからなら右の方かな?ヒナちゃんはスタイルいいから少しセクシーな方が良いと思うよ?」
「やーーん、カオルさんのえっちーなんちゃって?」
なんだこれ……傍から見ればカップルじゃないか…。カオル…さすがにそう簡単に妹は渡さんぞ。
「ヒナちゃん!!お兄ちゃんはそんな肌色多いの許しません!肩出し禁止!!ノースリーブ禁止!!それにカオルも妹の事変な目で見ない!!」
「充一先輩どうしたんですか?」
「あーあー始まったよ!じゅっくんのシスコン症候群」
ヒナちゃんが肩をすくめ呆れかえる。うるせーー!!僕にとっては大事な事なんだ!!
「ヒナちゃんとカオルが仲良くするのはいいが、仲良すぎると心配だ!!付き合う時はちゃんと僕の面接受けろよ!!カオル!!」
「じゅっくん…こうなると長いんだよ、ごめんねカオルさん……って」
「ええ!?付き合う!?付き合うって僕と……ジュウザ先輩が?どうしよう……もう、面接の段階まで進んでるんだ。あの難攻不落のジュウザ先輩を……」
「ありゃりゃ…カオルさんもおかしくなってた…」
この後、しばらく三人で落ち着くまでてんやわんやした。
まあ、カオルとヒナちゃんが仲良くなってくれて良かったよ。
………
……
△▼△▼
同日夜。自宅のふろ場の中で柳カオルは携帯を持ち込んでにやにやと画面を見ていた。
今日先輩と一緒に取った2ショットである。帰り際に頼み込んだらヒナちゃんも加勢してくれて、何とかカメラに収めることができた。そして、その写真はしっかりと待ち受けへ。
「むふふ……先輩と一緒に買い物に行って写真撮って、……それに妹さんのアドレスもゲットしたし順調だよ」
今日の自分の出来栄えに思わずガッツポーズをしてしまう。
最初こそ先輩に迷惑かけてしまったものの、先輩の家族とは外堀を深められたし、それに先輩にペンダントをもらってしまった。
「もう最高だよ~そ、それに……」
先輩に慰められてた時に思わず胸に飛び込んでしまった。あの胸の中……
「ああ、ダメだ思い出すとよだれが…」
とにかく今日は良い日だった。久しぶりにゆっくり寝られるぞーー!!それで、夢の中で先輩にあんなことやこんなこと……むふふぅ~。
しかし、そんなカオルの幸せを切り裂く様に携帯がピロリーンと通知音を鳴らす。
「あれ?だれからだろう?ヒナちゃんから…?なになに」
『あんまりじゅっくんに色目を使わないでください。じゅっくんはヒナと結婚するんです。じゅっくんは毎日ヒナの裸体を舐めまわすように見て、ヒナもじゅっくんの裸を舐めまわすように見ています。相思相愛なんです。カオルさん……あなたにじゅっくんの○○○を舐められますか?ちなみヒナは舐められますよ。というか舐めたことありますよ?どうですか?それに、じゅっくんはヒナの手料理が世界で一番好きなんです。胃袋も既に掴んでるんです。あなたの入り込む余地はありません。悪い事は言いません、じゅっくんにこっぴどく振られる前に自分から退いてください。』
「え…なにこれ…?」
一瞬思考が固まる。なにこれ……妹と裸を見合ってる?舐める…?
どういうこと?
いそいで連絡を返す。
『えと、ヒナちゃん…どういうこと?ヒナちゃんと充一先輩は兄弟だよね?』
すると数秒で何倍にもなって帰ってくる。
『だ~か~ら!ヒナとじゅっくんが結婚するって言ってるんです!!!法なんかヒナが総理大臣になって変えます!!変わんなくても結婚します!!それに、じゅっくんもヒナの事が大好きなんです。あの目は性的な目でヒナの事を見てます。しっかりヒナのお股が反応してるので間違いないです!!じゅっくんがいやらしいからヒナの体も反応しちゃうんです!!だから、げへへ声では喜んでても体でも喜んでるじゃねーか状態なんです!!だからカオルさんは諦めてください!!』
自分の目が間違ってないか何度も見る。
間違ってない。間違いなく、これはヒナちゃんから来ているものだ。
流石にこれは僕でもわかる。ヒナちゃんはやばい人だ。
しかし、僕だって退くわけには行かない。教室であんな惨めな思いは嫌だ。
『ヒナちゃん……カオルお姉ちゃんって呼ぶ準備しておいた方がいいよ。わざわざこんなメールしてくるってことは僕の事警戒してるって事でしょ?』
一発かます。
すると何倍にもなって帰ってくる。
『はあぁ!?誰が警戒してるんですか?そもそもじゅっくんにまだ男だと思われてるカオルさんになんで警戒しなきゃなんないんですか?ふん!メールは保険です!!いままでじゅっくんの顔目当てで近付いてきた女を片っ端から排除してきたヒナのたかが第一手に過ぎません!!絶対にヒナが結婚して祝儀包ましてやります!!』
このメールを見て思う。
あれ、僕って充一先輩に男って思われてるの?
カオルの受難は続く。
「これ先輩の裏アカウントですよね」後輩の金髪美少女に脅されて、学園の美少女全員攻略する羽目になりました。 しんたろう @sintarou_0306
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