第8話「買い物の約束」
「ただいま~~」
今日は鈴木のせいでひどい目にあった。
自宅に帰ると同時に座布団にダイブ
狭い部屋なので、体を丸め猫のようになる。
「マジで疲れた……」
アタックした女の子は五人。内訳は彼氏持ちが三人で、微妙な顔をして連絡先を受け取ってくれた人が二人。
アタックの手応えが上々でも困るが、こんなに手応えがなくてもショックを受ける男心。
「なんでこんな事をしなくちゃなんないんだ……はぁ~~」
溜息をついていると妹が台所の方から顔を出す。長い髪をサイドにまとめ上げ、エプロンを巻いている。どうやら夕飯の準備をしているようだった。
「じゅっくん、おかえり」
「ただいま~ヒナちゃん」
寝ころんだまま顔だけ上げて声を出す。
「ああ~じゅっくん、また寝転んじゃって!帰ってきたらちゃんと着替えてよ!制服が皺になっちゃうでしょ!」
「あーごめんね?」
「ごめんねじゃなくって、ほら!部屋着持ってきてあげたから!着替えて!」
いそいそと立ち上がり、その場で制服のスラックスを脱ぐ。
「はい、制服とその眼鏡片付けといてあげるね」
「ん、いっつもありがと」
脱いだスラックスと眼鏡をそのままヒナちゃんに渡す。
本来であれば別の部屋で隠れて着替えるべきなのだろうが、あいにく一人暮らし用の部屋に妹と二人で住んでいるためそんな余裕はない。
もし、ヒナちゃんが嫌というならトイレに行って着替えるという選択肢もあるが……
「僕がここで着替えるのってヒナちゃん的に嫌?」
「ん?じゅっくんがここで着替えるのが嫌かって?なんで?」
「ヒナちゃんも思春期だしね……僕も嫌われたくないから聞いとこうと思って」
「ああ…、そういう事?別に気にしないよ。それにわざわざ着替えるためだけにトイレ行くのめんどくさいでしょ」
そう言うので隠れて着替えるという選択肢が消えてしまう。
そういう感じでヒナちゃんも僕の前で堂々と着替えをするのだが……。
お兄ちゃんとしては妹には恥じらいを持って隠れて着替えて欲しいという気持ちもあるのだが……まあいいか。
「あ、じゅっくん?制服にスマホ入れっぱなしだったよ?」
「ああ、ごめんね?」
「ってあれ?珍しくじゅっくんに連絡来てる!?」
スマホを取り出したヒナちゃんが驚く。
ヒナちゃんから受け取ったスマホを見て自分でも確認する。
「ホントだ……カオルから連絡来てる」
丁度今連絡が来たところで、返信をするとすぐさま既読状態になる。
――――――
<後輩のカオルです!!これって?充一先輩のアカウントですか?
>そうだよ、連絡先教えてたっけ?店長からでも聞いた?
<あ、えっと…そんな感じです。ごめんなさい、充一先輩に許可ももらわずに!
>全然大丈夫だよ。どうせカオルには教えようと思ってたし
――――――
そのまま軽いやり取りをしていると、ヒナちゃんがスマホを覗いてきた。
「誰?この人?」
「バイト先の後輩の子だよ。期待の新人って感じの子かな?」
ヒナちゃんには余計な心配をかけたくなくて執事喫茶でバイトしている事を伝えてないので曖昧に返答する。
「男の人?女の人?」
「男だよ、けっこう可愛い系の男の子」
「ふ~ん、お兄ちゃんってホント女友達いないんだね?ま、私にはどっちでもいいんだけど」
「うるせーほっとけ」
妹のいじりを軽く受け流し、再びカオルとのwhisperに戻る。
――――――
>それで今日はどうしたの?
<あ、えっと…今週の土曜の予定を聞こうと思ってて。今週末お暇でしたら服買いに行くの付き合って欲しいと思って…
>土曜か…
<無理そうですか?
――――――
今週土曜か…。
「ヒナちゃん?土曜日一緒に服買いに行こうって言ってたよね」
「うん!ちょっとお金がたまったからついにワンピースが買えるんだ!あと、じゅっくんの服も買わないとね!」
「そうだよね、頑張って貯めたもんね……う~ん、どうしようかな」
ヒナちゃんの予定を後回しにはできないし、どうしようかな。
せっかくだけど、カオルの誘いを断ろうかな…
「どうしたの?そんな悩んだ声出して」
「いや、カオルも土曜日に服買いに行くの付き合って欲しいって言ってたからどうしようかと思ってな。でも、やっぱりヒナちゃんと予定入ってるし断るよ」
そう伝えると、ヒナちゃんは驚いた顔をした。
「そんなの一緒に行けばいいじゃん」
「え?いいの?カオルが一緒に来ても」
「カオルさんが嫌がらなければ、私は大丈夫。それに、妹として兄の仲いい人に挨拶しないと!」
なるほど、それならばカオルにも聞いてみよう。
――――――
>土曜だったらもう一人加えた三人になっても大丈夫?それだったら一緒に行けるけど。
<三人ですか……、全然大丈夫です!ぜひ一緒にお願いします!!
>おっけー、じゃあ昼食後に待合せよっか。
――――――
「カオルも大丈夫だって」
「うん、分かった!それじゃあ三人で服を見にいこっか!」
「ヒナちゃんごめんね?気を遣わせちゃって」
「ううん、大丈夫だよ。そもそも、じゅっくんの壊滅的なファッションセンスを男目線で直してほしいって思ってたところだったから丁度良かったよ!」
そう言って、ヒナちゃんがにっしっしと笑う。
「誰が壊滅的だ!」
「きゃあ、じゅっくんが怒った~~」
ヒナちゃんと二人で狭い部屋の仲でじゃれあう。
今日も相座家は平和だ。
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