第7話「恋心……再燃!!」
「それじゃあ、お前ら気を付けて帰れよ」
新川先生がホームルームを終え、僕に一瞥をくれる。しかし、それだけでそそくさと教室を出て行ってしまった。
「なんだったんだろう……」
その時、急にスマホがバイブレーションを鳴らす。
「なんだ…?鈴木からか…」
――――――
>至急校庭前に来てください
<なんでだよ…
>はやく!はやく!
――――――
急かすような連絡を送ってくる鈴木。
新川先生の様子も気になるが、鈴木を無視すると怖い。
「仕方ねーなー」
急いで荷物をまとめ、校庭前に向かう。
………
……
校庭前、呼ばれた先には鈴木・ステラ・桜花が優雅な座椅子に座っていた。
「ああ、先輩やっといらっしゃいましたか?」
「やっと、って…これでも急いで来たんだけどね。んで、今日は何の用なの?」
鈴木は質問には指さしで返答している。
「あそこにいる子…お願いします。」
「は?お願いしますって?」
指をさした先には茶髪の可愛らしい女の子。…ん?鈴木が僕に女の子をお願いする……?
まさかが頭を過る。
「前言ったじゃないですか?私の指名した人をとろとろのどろどろに染め上げて欲しいって。あの子をお願いします!」
「はぁ!?お前冗談じゃなかったのかよ!!」
数日連絡が来なかったし、前の時も早々に話を終えたし完全に冗談だと確信していた。
この女……冗談と本気の区別が全くつかねえ!!
「冗談ではありませんよ。そのためにわざわざ手始めに手籠めにするに良い女を探したんですから。だから頑張ってお願いしますね?」
「はぁ?まじかよ…」
「ささ……思い切っていっちゃってください!」
背中をググっと押され、その少女の前に飛び出る形になってしまった。
「あ、えっと……その、」
「何でしょう?」
茶髪の子は僕へ優しく微笑む。
「あの、僕と今度……その…、」
上手く言葉が出てこない。女性を口説いた経験など無いからだ。しかも、絶対にフラれるかつ鈴木にバレないような口説き方をしなければならないのだ。
助けを求める様に鈴木へ目を向けるとただサムズアップしているのみ。
くそ……あいつ……。
「今度…その、僕と」
脳みそをフル回転させるが何もう浮かばない。そんな僕を見かねて少女が口を開く。
「ごめんなさい!!彼氏がいるので……」
「あ、えっと…」
「え?ごめんなさい、もしかして私の勘違いですか?てっきり遊びの誘いをもらったのかと…」
「あ、あの……そうなんですが……ごめんなさーーーい!!!」
結果としてフラれて良かったものの、気を遣わせてしまった。
ノープランで突っ込んでしまった申し訳なさといたたまれなさで鈴木の場所へ逃げ帰る。
「先輩?どうでした?」
「どうしたも、こうしたも彼氏持ちじゃねーか!!大恥かいたって!!」
「なるほど……彼女では満足いかなかったと…次行きましょうか?」
「てめ!!話を聞けえぇええ!!」
「さぁ!!次は一年生の子でも行きましょうか?」
▼△▼△
「はあ…充一先輩…」
胸に浮かぶ愛しの王子様を思い出しては物思いにふける。
初恋の初失恋、しばらく立ち直れそうになかった。
「今日、バイト休みでよかった……どんな顔してあったらいいか分かんないし…」
教室で一人頭を抱える。
会いたいけど会いたくない。矛盾する気持ちを持って張り裂けそうだ。
「カオルどうしたの?」
「ミナ……」
友達のミナが心配して話しかけてくれる。
ただ、失恋したことを認めたくなくってミナにも相談したくない。
「ミナ…大丈夫心配しないで…」
「いや、大丈夫ってそんなふうに見えないよ。ふだんあんなに柴犬みたいに元気なのに。そうだ、駅前にできたアイスクリーム食べに行こ?好きだったよね?奢ったげる!」
「ううん、…ごめん、今日はやめとくよ」
「か、カオルが…奢りを……やっぱり大丈夫じゃないよ!!」
心配するミナには申し訳ないが、気持ちの整理にとにかく時間が欲しい。
ぼーーっと廊下を見つめる。
その時だミナが少し驚いたような声を出す。
「あ、ステラさんだ。なんか男と歩いてるよ?変な眼鏡付けて芋っぽい奴だね。ステラさんってB専なのかな?」
ミナはステラさんに注目しているが僕はそれどころではない。
「充一先輩……」
急いで机に突っ伏する。
見たくない。見せつけられたくない。幸せな二人の姿を。
見せたくない。見て欲しくない。こんな自分の姿を。
「え?カオル?」
「眠くなった。もう眠くなったんだからほっといて!!」
「いや、でも…」
「もう寝る!!寝ます!!ぐー、ぐーー!……」
それでも腕の隙間から横目で充一先輩を目で追ってしまうのはいつもの癖だろうか。
ああ、充一先輩だ。
充一先輩が仏頂面で歩いている。
充一先輩の自然な姿。
飾ることのない自然な姿。
そして、あろうことか僕たちの教室の前で立ち止まるではないか。
「ぐぅー、ぐぅー」
ば、ばれたくない。烏滸がましくも充一先輩と付き合えて、彼女になれるかもと夢見ていた自分を知られたくない。
せめて、せめて、僕は充一先輩に明るくて楽しい後輩だって思われていたいんだ。
「ぐぅー、ぐぅー、すぴー」
「カオル?」
ひぎ!?充一先輩が教室内に入ってくる!?
なんで!?もしかして…僕に気付いてるの!?
やったことのない必死な演技をする。
「すやーー!すぴーー!」
「いや、ツッコミどころ多すぎでしょ…」
しかも僕の方に近付いてくるし……なんで?なんで?
そして、ちょうど僕の前で歩を止める。
バレる!?バレた?
しかし、充一先輩は僕に目もくれずに話し始めた。
「ちょっと、君…今時間良い?」
「あ、はい?私ですか?」
え?ミナ?
「どうしたんですか?」
「えと、本当に良かったらでいいんだけど…本当に良かったらでいいんだけど、君がタイプだから、良かったらwhisperしない?これ僕の連絡先だから良かったら連絡ください、それじゃ」
そう言ってそそくさと歩いて行って、再びステラさんと合流をする。
……
…
…あれ?
先輩たちが去った後にゆっくり顔を上げる。
「ミナ?今もしかして…」
「ああ、なんかナンパみたいだったね」
「そそそそそ、それで……ミナはあの男の人と付き合うの、付き合わないの?」
「う~ん、優しそうだけど、私的にあのグルグル眼鏡だけはなしかな。あの眼鏡をはずしてくれたら考えるけど……」
先輩が頑なに眼鏡を取らなかった事実を思い出す。これはミナと先輩が上手くいくはずも無い。
心に旋風が巻き起こる。
これは……ナンパをするということは……ステラさんと付き合ってない!!!!
それにミナとも付き合う未来は無い。
心の曇りが吹き飛ぶ。
僕に再びチャンスがやって来た。
よし、先輩をいっぱい僕の体で……むふふふ…。
「ミナ……アイスクリーム食べにいこっか」
「あれ?カオル元気になった?」
「元気!!とっても元気!!僕の奢りだ。食べ行こう!!」
足取りは軽く、教室を後にする。
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