第6話「誤解」
「それで大事な話ってなんだよ?」
僕はテーブルの向かい側、鈴木・ステラ・桜花の目の前に座る。テーブルに肘をつき反抗心だけは忘れないようにする。
「私の隣に座らなくていいんですか?これはお嬢様と執事の逢引きですよ?」
「バカ、冗談言うなよ」
「あら?先輩の事を思って言ってるんですよ?だってこれから、先輩が周りに効かれたくない話をするんですもの」
この女…本当にいやらしい言い方をする。
僕は今いる席を立ち、鈴木の隣に詰める。
「やん♪先輩近いです。でも先輩ならもっと近くてもいいですよ?」
そう言いながら肩を寄せる鈴木。
くそ、いい匂いがするからムカつく。
「ぴとっ、先輩……?私たち今どういうふうに見えてますかね?」
「ただの先輩と後輩かな?」
「え~、いや絶対もっと仲良しに見えるはずですよ?例えば……プレイボーイと愛人とか?」
「実際は脅迫者と被脅迫者だけどね」
鈴木に話を合わせると一生からかわれるだけなので、できる限り反応しないように適当に流す。
「ま、そんなことはどうでもいいから早く本題に行こうよ」
「も~先輩って連れないんですから!仕方ないですね~先輩がそんなに言うなら」
そう言いながら、耳元に吐息が当たる距離まで口を近づける。
「先輩…今日早速、新川先生に告白したみたいじゃないですか?」
鈴木は呟くように伝えた後ににこっと悪戯な笑みを浮かべていた。知っている、この女がこういう顔をしたときは決まってよいことがない。僕は慎重に話を進めることにした。
「どこで知った?」
「人伝に聞きました。それでこれは本当の事でいいんですよね?」
確認のように聞いてくるが、根回しの良いこいつがこうやって聞く場合は裏取りをしているのだろう。否定をしても意味がない。
「ああ、告白したみたいだな。ただ言っておくと別に告白したわけではなくて結果的に告白した形になっただけどね」
「ふふ、そんないい方しなくても大丈夫ですよ?私は先輩が約束を守ってくれて嬉しいんです。ぜひ、このままイケイケドンドンと言って欲しいんですよね」
何が言いたい?
こいつは新川先生にさらに突っ込めと言っているのか?
流石にそれは無理なことを言っていると自分で理解しているのか、生徒と先生だぞ。
「残念だが、新川先生は無理だ。あのあと生徒指導室でかなり諭されたし脈が無い。このまま告白を続けても先生に迷惑をかけるだけじゃないか?」
正直に言えば、告白して毎回生徒指導室行きもつらい。こうなってしまっては、いくらポーズだけとは言えども、大学進学の内申に響きかねない危ない橋を渡るのはごめんだ。
「ええ、私も先輩の言葉に同意です。新川先生はやめましょう。やっぱり生徒と先生の関係ですしね?」
そんな僕の言葉に、意外にも鈴木は同意を示した。
「あ…ああ、そうだよな」
ほっ…良かった。
しかし、安心したのも束の間。
「だから、先輩には私の指名した人にとろとろに蕩かして、先輩なしじゃ生きていけない体にしてあげて欲しいんです♪」
「はぁああ!!?」
思わず少し大きな声を出して立ち上がり、周囲の何人かがこちらを向く。
しまった……周りに軽く礼をして、再び席に着く。
「…こほん。お前どういうつもりだよ。指名?ふざけんな」
指名をされれば、告白に失敗し続けて時間稼ぎをするという作戦の失敗の可能性が万が一にも出てきてしまう。
「いや、そんな適当に選んでお前の思惑通り行くわけないだろう。ここは僕が慎重にえらんでだなぁ…」
「それこそ間違いです。私が選ぶ方が成功率ぜっったいに高いですよ。それにそっちの方が面白いですし♪」
こいつ……
僕が必死に反論を考えているが、口を人差し指で塞ぐ。
「大丈夫です。先輩にぴったりのかわいい子を探してきますから」
「ぐ、そういう事じゃなくってだなぁ…!」
「今度バイトの無い放課後に連絡を送るんでちゃんと来てくださいね?」
「いや、そんな適当に決めた人を……」
鈴木は反論しようとする僕の言葉なんかに効く耳を持たない様で、既に目は執事喫茶のメニューへ向かっている。
「あ、この『パンケーキ食べさせコース~お嬢様をわたくし色に染め上げさせてもらいます~』ってやつ、面白そうですね。」
「お前、話を……」
「でも、『二人でコーヒー~従順なペット執事を躾けてあげるわ~』って方も気になりますね」
こいつ……話を聞かないだけじゃない。
「先輩、これって何て読むんですか~~❤」
値段をバカみたいに高くして話題作りのためだけに置いているメニューを本気で頼もうとしてる。
「あ、でもこれにしましょう。執事さん?『嫉妬爆発お茶会コース~お嬢様…本当にあの許嫁の男と結婚するんですか?~』をお願いします」
っちょ!!待て!それ一番やばい奴だ!僕の病的なファンでさえ、一度しかこのコース注文してないんだぞ。
多分それを知ってて注文してんだろうな……まじでこの女ほんとに食えねえ。
「……さ!!先輩楽しみましょうか♪」
「てめ…女だけどぜったいいつかぶん殴ってやる」
「ぷくく…先輩のへっぴり腰パンチを見れるなら本望ですよ」
「っぐ…まじでてめえ…」
「店長!注文お願いしまーーす!『嫉妬爆発お茶会コース~お嬢様…本当にあの許嫁の男と結婚するんですか?~』をジュウザで!!」
「ああ、マジで注文しやがった!?」
………
……
△▼△▼
「はぁ~~ああ~失恋しちゃったかも…」
同日夜。自宅のふろ場の中で柳カオルは膝を抱えて落ち込んでいた。湯船につかりながら、今日の『自由の鳥カゴ』で見たことを思い出す。
「まさか……ジュウザ先輩とステラさんがあんなに仲良かっただなんて…、ステラさんって綺麗だし仕方ないもんね?」
笑顔話すステラさんと、それをうっとおしそうにしながらも優しく返すジュウザ先輩。傍から見れば完全にお似合いのカップルの姿であった。
「ステラさん…あんなに冷徹に何人も男をフッてきてるのに、ジュウザ先輩にはあんな可愛い笑顔するんだもんな……」
考えると涙が出てくる。
ずっと好きだったのに…。
中学校の時から……ずっと一途に追いかけてきたのに……
でも、祝福するべきなのか?
傍から見れば完全な美男美女カップル。誰にも邪魔することはできない。
そう考えても、心の中に引っかかるものはある。
僕だって……いや、僕の方が長い間好きだったんだ。…やっと話せたのにこんなのってないよ……。
憧れのだったんだ。一目ぼれだった。あの凛とした姿に、堂々とした生き方に尊敬をしたんだ。
ずっと憧れだった……
相座充一先輩
かっこよくって、優しくって…本当に大好きな男の子。
自分の膨らんだ胸を抑える。
「やっぱり、ジュウザ先輩ってステラさんみたいなスラッとした小さめの体が好きなのかな?」
ステラさんは身長も150cmに満たない程。胸も可愛らしいAカップ。一緒の女子更衣室で見たことがあるから間違いない。
自分の発育の良い胸が悔しい。
友達なんかにはよく羨ましがられるが、僕にとっては何一つ嬉しくない。
ジュウザ先輩の好きな体になりたかったからだ。
ジュウザ先輩の事を考えながら、胸を押さえると少しふわふわした気持ちになる。
「ん…んくぅ……ジュウザ先輩…。」
せっかくジュウザ先輩を追って、同じバイト先に頑張って合格したのに……。ジュウザ先輩が貧乳好きって聞いたから、小さめの下着をつけて、押さえ込んでいるのに一向に小さくなろうとしない胸。
「小さくなれ…んふぅ…小さくなぁれ、こんな胸、んくぅ……ジュウザ先輩…。充一先輩……」
ふわふわする気持ちと失恋の悲しい気持ちを併せ持ちながら、今日も柳カオルのお風呂は長い……
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