第4話「思いついた必勝の作戦!!」

鈴木との契約の次の日、今日も今日とて学校。あんなことがあろうとも、勉学をさぼるわけにはいかない。



「んで、ここが枕詞になってるってわけだ」


 美人教師の新川先生がチョークで達筆な字で板書をつくる。それを見ながら、自身もノートに写していく。

授業に遅れないように、集中しなくちゃ……そう思うのだが、やっぱりどうしても昨日の出来事が頭を邪魔してくる。

 

『私と一緒に学園中の女を攻略しましょう』


 鈴木・ステラ・桜花の放った言葉だ。

 

(なんだよ!!女を攻略するって!!そもそも、僕は恋愛経験0だし、バイト以外で女の子と喋ったこと無いぞ。……しかも、脅されて混乱して強く否定もできなかったし!!逃げても無駄って言ってたから、逃げるのもおそらく無理だろう!!はいっ詰んでる!!!)


 現状を考えるとため息が出る。

 そもそも、僕が人気執事だから女の子を攻略できると鈴木・ステラ・桜花は思っているのだが大間違いである。

 

 執事喫茶に来る女性たちは元々、執事たちに好意を持って来るのである。だから、僕に減点要素さえなければ心を開いてくれるというカラクリなのだ。

 しかし、この学校の女性達はどうであろうか。グルグル眼鏡の陰キャで有名な僕にかなりの悪印象を持っているだろう。だからこそ、攻略するには圧倒的な逆転要素が必要なのだ。

 

 以上のことから僕には女の子を攻略することができないのである。QEDなのである。

 

(そもそも……僕だって攻略するなら本当に好きになった女の子が良い。そうじゃなきゃ相手に失礼だし僕の気だって乗らない。)


 こういう所が僕に彼女どころか友達もいない所以なのだろうか?

 はぁ~~~と再び溜息をつく。

 

「じゃあ、溜息をついてる相座!!ここ記述から分かること答えてみろ!」


 新川先生が急に僕を指名する。

 

「はい!!女の子と話せないと思います!!」


 急な指名だから、考えてたことが思わず口をついて出てしまった。

 しかし、新川先生はニッコリと微笑む。

 

「そうだ偉いぞ。ちゃんと聞いてるじゃないか。そうだ、この男は意中の女と恋人になるどころか話す事もできなかったというわけだな。よく、この和歌の主題を見抜いたな。」


 えっと、なんか奇跡的に合ってたみたいだ。良かった…。

 ……って良かった…じゃない!

 新川先生は最前列に座っている僕を当てる傾向がある。授業に集中しないと!!

 そもそも、僕は良い大学に行って妹を養うんだろ!!集中!!鈴木・ステラ・桜花の事は後で考える!!

 

 ノートに目を落とし、急いで板書を写す。

 

(え~と、この古文…女の子に告白しようとして失敗する話なのか…)


 教科書を読みながら、メモを交えノートを完成させていく。どうやら、今回の授業はハーレム王を目指せと仏様に命令された男が、女の子に告白しては撃沈しまくるという話だった。

 

(くすっ…読むとおもろいじゃん。ハーレム王目指すなんて、結局全部失敗してるし…)


 告白しては振られ、告白しては振られ……、そのたびに仏様に謝りに行って。でも仏様も努力はしてるこの男を許してるんだよな。

 

(仏様も『仏の顔も十度までだからな』って許しがガバガバじゃん……)


 その時、この古文の話の何かが心に引っかかる。

 

(この話……今の僕と似てないか?……いや、似てるどころか…そのままだ)

 

 ハーレム王を目指せと命令された男は僕に、そして、それを命令した仏様は鈴木と被る。まあ、あの希代の悪女みたいな鈴木を仏と呼ぶにはいささか違和感が余りあるが。


 そんなことよりも、重要なのことは話の中で、挑戦する姿勢を見せることによって仏様に努力を認めさせているということだ。


 ということは……僕もアタックして失敗し続ければ、鈴木・ステラ・桜花に許してもらえる可能性がある。

 

 いや、だが……それには一つの問題がある。

 鈴木・ステラ・桜花は並大抵の女ではない。僕が告白を失敗しそうな女性を狙ってアタックを続ければあの女は勘づくのではないか?

 

 ということは……ノートにペンを走らせ現状を書き綴る。




 ・僕はこの学園の女の子を全員攻略が目標(しかし、ポリシー的にも能力的にも不可能)

 ・なら攻略するポーズを見せて時間稼ぎをする。(※ポーズであることが鈴木・ステラ・桜花にばれてはいけない)

 

 →ではバレないために何が必要か?





「何が必要か……」


 自問を呟き、さらに思考を深める。僕が本気でアタックして失敗することで鈴木に攻略をさぼっていることがばれることは少ないだろう。そもそも本気なのだから

 だが、万が一にでも成功してしまったら……鈴木・ステラ・桜花はまた次の女性を探せというだろう。

 ……となると再び女性へのアタックをしなきゃなんなくて、万が一にできた彼女を悲しませる。つまり、アタックが成功するとマイナスが生じたうえでフリダシに戻るというわけだ。

 

 再びペンを走らせる。



 

 →ではバレないために何が必要か?

 

 ・僕が本気でアタックして嘘っぽさを出さないこと。


 ・僕が本気でアタックして失敗すれば

 →何もなく時間稼ぎ成功

 ・僕が本気でアタックして成功すれば

 →最悪の状況

 

 

 となると、アタックする女性は万が一が起こってはいけない女性かつ僕が本気になれるような人を指名しなくちゃいけない。

 

「僕がタイプの女性で、なおかつ失敗しそうな相手……う~~ん…」


 学園で人気のマドンナなら、僕の事をフってくれそうな人……いかん、こういう時に交友関係が少なくて情報がないという弱点が響いてきてる。

 誰も思い浮かばん。

 

 う~~ん

 う~~~~ん……

 

 

「う~~~~ん……」


「どうかしたか?相座?授業で分からないとこでもあったか?相座に分からないところなんて珍しいな!」


 僕の苦悶の声が漏れていたようで、心配そうに新川先生が気をかけてくれた。本当に優しい先生だ。


「あ、すいま……」


 新川先生の顔を見て、謝ろうとした言葉が止まる。

 

「ん?どうした?相座?」


 新川先生って短めの綺麗な黒髪に切れ長の目、控えめに言っても美人だろう。性格もさっぱりとしているが生徒想いで優しい所もある……正直、かなり好みではある。

 

 僕が本気になれるかどうか――クリア!!

 

「……あれ?」


 大人の女性で男のフリ方も分かっているだろうし、なにせ生徒と教師という間柄だ。僕の事をフラない訳がないだろう。

 

 

「……あれれ??」


 ということは……そうなのか?

 

「どうした?相座?分からないところあったら気軽に質問していいんだぞ?」


 微笑を浮かべながら、僕の席の前にくる新川先生。

 ああ…そういうことだ。

 僕は席をすっくりと立ち上がる!!

 


「新川先生!!新川先生って生徒との恋愛はありですか!?」


 そうだ!!これで生徒と恋愛するわけないって言葉が返って来れば!!僕は晴れて新川先生にアタックできる!!


 しかし、僕の興奮とは反対に教室はシーーンとしていて。

 あ、あれ?いや……いま僕何を言った!?

 新川先生は切れ長の猫目をさらに細めて、こちらを睨んでいる。

 

「相座……」

「あ、あの~~」

「後で生徒指導室に来い……説教だ」


 そうですよね~~……ここで、『僕またなんかやっちゃいました?』って言えるラノベ主人公みたいな胆力が欲しかった……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る