しょうたくんとシフォンケーキ

 よしつぐ兄ちゃんはお菓子を作るのが大好きです。

 そしてしょうたくんはよしつぐ兄ちゃんの作ったお菓子を食べるのが大好きです。

 特に兄ちゃんが作ってくれるシフォンケーキはしょうたくんの大好物。

 焼きあがったものを型ごとビンに逆さまに刺して冷ましている間に、こっそり背伸びしてはしっこをちぎってお味見しています。

 ちぎっては食べ、ちぎっては食べ……あれ?一個なくなっちゃいました。


「……食いしん坊さんは誰かな……??」


 ケーキの様子を見に来た兄ちゃんが引きつった笑いを浮かべています。

 兄ちゃんはこんなこともあろうかともう一個焼いておいたのですが、そちらも半分くらい食べられてしまっています。


「……こっちはナイフで切ってあるんだけど……しょうたのしわざじゃないね?」


 おや、さくらねえちゃんが慌ててお口の周りを拭いています。

 兄ちゃんは仕方がないのでもう一度ケーキを焼くことにしました。

 お母さんと手分けして卵を割って黄身と白身をわけ、白身だけを冷凍庫で冷やします。

 白身を冷やしている間に黄身を湯せんにかけながらもったりするまで泡立て、お砂糖と小麦粉を加えて混ぜ合わせて滑らかにして、サラダ油を加えます。

 しっかり白身が冷えたらハンドミキサーで白身をしっかり泡立てます。ボウルを逆さまにしても落ちてこないくらいしっかり泡立てないと、ふわっふわのケーキになりません。

 あれ?ハンドミキサーから変な音がしてきました。


 ……がががが……ぷす


 おや、変な煙が出てハンドミキサーが動かなくなりました。


「……ここんとこ毎日使ってたからね……」


 どうやらハンドミキサー氏は過労によりお亡くなりになったようです。

 作りかけの生地はどうすれば良いでしょうか。


「……」


「……」


 しばらくよしつぐ兄ちゃんとお母さんは唖然としていましたが、やがて泡だて器を出してきて、猛烈な勢いで白身を泡立て始めました。


「このくらいで大丈夫そうだね」


 ボウルを逆さにひっくり返して落ちてこない事を確認した兄ちゃんは、二種類の生地を手早く混ぜると型に流し込んで焼きました。

 焼き上がりは、今度は二人の手が届かない棚の上で冷まします。

 さくら姉ちゃんが脚立を持ってきかねないので、待っている間に棚の前のダイニングテーブルで宿題を済ませてしまいましょう。

 さすがに兄ちゃんの目の前でつまみ食いをするわけにはいかないらしく、しょうたくんもさくら姉ちゃんも諦めるしかありません。

 ……あれ?一番年上のかずひろ兄ちゃんがおかあさんに取っ捕まっているのは気のせいでしょうか?


 かくしてハンドミキサー氏はご臨終あそばしましたが、みんなめでたくケーキにはありつくことができたのです。

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