第22話神父様

声のかかった方を見ると、無精髭にボサボサの髪。そして手には今しがた仕留めてきたであろう兎を手にこちらを睨みつけている人物。

とても神父様には見えませんが、この方は正真正銘西の神父様です。

その証拠に、首にはキラッと光る十字のペンダントが掛かっています。


「ここで何をしているか聞いている」


ドサッと兎を床に下ろすと、腰に付けていた小刀を手に私達を威圧してきます。


「僕らはあんたの事を調べに来たんだよ。空間を歪めてまで人を遠ざけて、コソコソと何してんの?事と次第ではこのまま連行するけど?」


私達は不法侵入なので、明らかにこちらに非がある訳ですが、そこはティムさん。とても強気発言です。

しかし、これでは喧嘩を売っているのでは……?


「──……どこの馬の骨かと思えば、あの殿下小僧の差し金か?」


殿下を小僧と!?


神父様は小刀を鞘に戻すと、床に置いておいた兎を手に私達をすり抜け奥へと進んでいきました。


「ちょっ!!」


慌てたルイスさんが神父様の肩を掴み止めようとしましたが、鋭い睨みで逆にルイスさんが尻込みし「ティム~、あの人怖いよ~!!」とティムさんに泣きつく始末。


奥のドアに手をかけた所でクルトさんが「待や」と止めてくれました。

当然睨みつけられてますが、ルイスさんとは違いクルトさんは怯みません。流石です。

神父様は大きな溜息を吐くと、顎でクイッと合図しております。

この合図は付いて来いと言うことでしょうか?

私達は互いに顔を見合わせ、互いに目配せをし神父様について行くことにしました。


付いて行った先は、神父様の執務室の様でした。

そして椅子に腰掛けると、私達にもソファーに座るよう促してきました。


「──……で、貴様らは何が聞きたい?」


「話が早くて助かるね。単刀直入に聞くけど、今町で暴れているアンデッドを作ってるのはあんたの仕業?」


神父様は怠そうに背もたれに持たれながら尋ねてきたので、ここはティムさんが対応しませ。

まあ、簡単に口を割るとは到底思えませんがね。


「──……それは俺ではない」


──ほら、否定です。


って事は、あんたは何に手を出してんの?」


ティムさんの問に、神父様は黙ってしまいました。

しかし、ティムさんは更に続けます。


「あんた、何の為にこの教会を人目に付かない様にしたの?アンデッドを作る為じゃないの?……ってか、町の人間は八割方あんたが犯人だと思ってるけど?」


そう伝えると、神父様の目付きが鋭くなりました。

クルトさんはそれとなく剣を握りしめ、いつでも抜ける準備をしております。


しばらくティムさんと神父様の睨み合いが続きましたが、折れたのは神父様の方でした。


「はぁぁ~。あの小僧の手下じゃ、分が悪い。……俺の負けだ」


神父様は観念したのか、降参とばかりに両手を上げました。


「じゃあ、あんたが犯人だって認めるってことだよね?──それと、勘違いしてるから教えるけど、僕ら殿下とは無関係だからね」


「貴様ら、小僧の者じゃないのか?じゃあ、何しに来た!?」


神父様は本気で私達が殿下の使いの者だと思っていたらしいです。

自分の予想が外れて大変驚いています。


「だ~か~ら~、アンデッドの製作者を探してんの!!で、それがあんたで間違いないのかって話!!」


話が中々先に進まず、ティムさんが遂にキレだしました。

隣でルイスさんが落ち着くように宥めていますが、火に油を注いでいるような気がします……


「それは、俺ではない……しかし、製作とやらは知っている」


神父様の一言に全員の視線が神父様に向けられました。


「それは誰や!?」


クルトさんが前のめりになり、掴みかかりそうな勢いで問いただします。

神父様はしばらく黙っておりましたが、覚悟を決めたのかゆっくり口を開きました。


「……製作者は私の……娘だ」


娘……?


「……名は、ファニー。城に忍び込み魔術書を手にした愚か者だ……」


──……は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る