第21話西の教会

私達はそっと空間が歪んでいる所へ足を踏み入れました。

中に入ると視界が揺れて見えますが、これは仕方ありません。足元は歪んではいますが道が続いているのが分かります。そこをゆっくりと歩いて行きます。

先頭はクルトさん、その後にティムさん、ルイスさん、私と続いています。


「ちょっと待て。こやつを連れて行け」


しばらく歩いたところでシャーロットさんに呼び止められ、手渡されたのはフェルスさんでした。


「妾は一緒に行けぬが、フェルスを伴えば念を送れる。何かあればフェルスを通じて話すことが出来よう」


なるほど、それならばシャーロットさんが付いて来ずとも有事の際には何とかなるという事ですね。

しかし、まさか大切なフェルスさんを私達に託してくれるとは思いもしませんでした。


「仕方ないから貴様らのおもりをしてやる。感謝しろよ!!」


私の腕の中で短い前足を出してビシッと物申すフェルスさん。

その姿にシャーロットさんは「あぁ~、い」と悶絶しております。


こうして、ウリぼ……もとい、フェルスさんを引き連れ西の教会を目指し歪んだ道を歩き進めました。



◇◇◇



「……うっ……うっぷ……」


しばらく歩いた所でルイスさんの様子がおかしくなりました。


「ルイスさん、どうかしましたか?」


「……ぎも゛ぢ……うっ!!」


そう言うなり口を押えしゃがみこんでしまいました。

どうやら、この歪んだ道に酔ったらしいです。

まあ、分からんでもないですが……酔うの早すぎません?


「おいおい。まだ歩き始めたばかりだぞ?大丈夫か?」


フェルスさんがルイスさんに声をかけますが、ルイスさんは口を抑えるのが精一杯のご様子。

しかし、ここでのんびりしている時間もないのです。

制限時間は一時間。少しでも時間が惜しい。

そこで、クルトさんがルイスさんを担ぎあげ素早くここから抜けることにしました。

途中「出る、出る!!」とルイスさんが騒ぎましたがその都度クルトさんが睨みつけ「ルイス分かっとると思うけど、僕の背中で吐きくだしたら……──殺すで?」と言われるとルイスさんは必死に口元を抑え色んな意味で真っ青になっておりました。

ルイスさんがいよいよ限界になった所で、ようやく出口が見えてきました。


道を出るとそこは西の教会の目の前でした。

到着するなりルイスさんは森の奥へ駆け出し姿を消しました。

しばらく待ってきると、スッキリした顔で口元を拭きながら戻って来ました。


「いやいや、お待たせ~」


へらへらしながらこちらにやって来たものですから、ティムさんに蹴り飛ばされ「待たせて悪かったなって言う反省の色はないの!?」と叱られていました。


──まあ、これがルイスさんの通常運転ですからね。


「そんな事はどうでもいい。貴様ら覚悟はいいか?」


フェルスさんの言葉にティムさんのお説教が止まり、ルイスさんはホッとしておりました。


久しぶりに見た西の教会は随分と寂れ、壁には蔦が所狭しに覆っていてパッと見、教会か廃墟か区別が付きません。

初めて見たクルトさんが「化け物屋敷やん」と仰るほどです。


──確かに、ジェムさんの屋敷といい勝負ですね。


「行くぞ」


フェルスさんの合図で蔦まみれの扉をゆっくり開き、中へと足を踏み入れました。

外観に比べ中は割と綺麗ですが、窓を蔦が覆っている為光が入らず薄暗いです。

中を見渡しますが、西の神父様がおりません。

クルトさんとティムさんが部屋をガチャガチャ開けてはいますが、どこにもいない様子。


──逃げましたか?


そんな思いが頭を駆け巡りましたが、そんなものはすぐに打ち砕かれました。


「誰だ?何をしている?」


声をした方を見ると……いました。西の神父様です。

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