第23話娘

──今、この方はなんと……?


いや、確かにファニーさんは調査対象者でしたが、そんな素振りは見当たりませんでした。

むしろ、ジャックさんの方が怪しかった位で……


──やはり、友達になりたいと言われたのは私を欺く為でしたか……


多少疑いはしておりましたが、私に向けてきたあの笑顔が作り物だと言う事実を突きつけられて、柄にもなくショックを隠しきれません。

私の様子がおかしい事に気がついたクルトさんが「どないした?」と声をかけてくれましたが「何でもありません」と伝えるのが精一杯でした。


「えっと……じゃあ、娘さんが犯人って事?」


ルイスさんが神父様に確認すると、無言で頷きました。

そして、しばらくの沈黙の後、神父様が口を開きました。


「──娘……ファニーは、東の教会の神父に母親が殺されたと思い込んでいる」


「それは何故?」


「あの子の母親は活発で明るかった。こんな俺を愛してくれたんだ、心も器もデカい奴だったよ。……それが、ある日町に行ったきり帰ってこなくてな。心配した俺とファニーが町に出ると、人集りが出来ていた。何事かと見に行くと、頭から血を流したアイツがいた」


ファニーさんが東の神父様を恨むきっかけになった出来事を淡々と話始めてくれました。


「俺らはすぐにアイツの元に駆け寄った。だが、もう、その時には息はなかった。俺は周りにいた人間に何があったのか聞いた。すると、ある貴族が猛スピードで馬車を走らせ東の教会に向かっていた、その馬車に轢かれたのだと教えてくれた……その馬車に乗っていたのが東の教会を支持している貴族だった……」


昔の事を思い出し、俯き、頭を抱えながら私達に話してくれました。

神父様の話を纏めると、ファニーさんのお母様は東の教会を支持している貴族の方に轢かれ亡くなった。その現場を目にしたファニーさんは東の教会を支持する貴族=東の神父のせいだと思っていると……


「幼かったせいもあるが、目の前で母親が死んだらまともな判断が出来なかったのだろう。それ以来、ファニーは東の教会を恨んでな。復讐を企てるようになった」


まあ、本来復讐されるべきはお母様を轢いた貴族の方の方ですからね。東の神父様からすれば、とばっちりもいい所です。

ですが、この分じゃ話し合いでは解決しなそうですね。


「ふ~ん。とりあえず、犯人は分かった。けど、アンタが人を避けていた理由は何?犯人が娘なら人を遠ざけるより、町の人間から情報を得て止めるのが親じゃないの?」


ティムさんが最もな意見を言って述べました。


「……俺は町の人間から嫌われているからな。町の人間には俺が犯人だと思わせとけばいい。ファニーは俺が止める。その術を探す為に、ここの空間を捻って人が入れないようにした」


「まあ、貴様らには小細工は通用しなかったがな」と付け加えられました。

私達もシャーロットさんがいなければここまで到達出来ませんでしたよ……

と、ここで「はっ」と気が付きました。


「今何時ですか!?」


「「あっ」」


そうです。シャーロットさんの約束は一時間。

そして、今現在の滞在時間55分経過したところです。


「まずい!!戻るぞ!!」


フェルスさんが慌てた様子で私達を急かします。

とりあえず、犯人と神父様の関係が分かったので成果は上々です。

あとは、無事にここから出るのみですが、ルイスさんが渋り始めました。


「俺ヤダよ!!またあの道通るの!!」


相当空間酔いが堪えたようで、教会から出たがりません。

仕方なく、無理やり連れ出そうとクルトさんとルイスさんの攻防が始まりましたが、正直こんな事に時間を費やしている場合では無いのです。


「小僧!!いい加減にしろ!!」


フェルスさんの後足キックがルイスさんの顔面にヒットしましたが、ルイスさんはへこたれません。

このままでは本気でまずいです。

こうなれば、気を失ってもらうしか……


「──戻るなら、空間を戻してやる」


私がルイスさんに手を出す前に神父様から声がかかりました。


「そんな簡単に出来るものなの?」


ティムさんが怪訝な顔で神父様に問いかけました。


「一応これでも聖職者だからな。それなりに力はある。それに、自分で掛けた術が解けない術者など聞いたことがない」


まったく、その通りですね。

神父様はスッと私達の横を通り過ぎ、空間の捻れに手を差し出すと、何やら呪文を唱えたかと思えば歪んでいた空間が元の歪みも何も無いただの道へと戻っていました。

ルイスさんはその道を見るなり歓喜で神父様に抱きつきましたが、勢いよく平手で弾き飛ばされました。

私達は神父様にお礼と、今後何かしら協力を得るかもしれないことを伝え、教会を後にしました。


その後、空間の捻れが突然消滅し驚いているシャーロットさんに事の顛末を説明し、犯人が誰か伝えました。

「ルッツにも話した方が良かろう」という事で、ティムさん達はゴリさんの待つ便利屋へ。

私は殿下に報告する為、城へと各々向かいました。

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