第52話うり坊
立ち上がったシャーロットさんは、再びパンッと手を叩きました。
すると、今度は部屋の中から辺りが緑の草木に覆われた場所にやって来ました。
木漏れ日を浴び深緑の香りが漂うその場所の中心には、草花を生やした小山があり、兎や狐が蝶を追いかけながらその山を駆けずり回っていました。
その他にも、餌を抱えてねぐらに戻るリスや巣穴から出でこない臆病な狸など、沢山の動物達がいました。
それはまるで、異次元にいるような感じでした。
──なんと言う、素晴らしい場所でしょう。
「……ここは妾の相棒、フェルスの墓じゃ」
シャーロットさんは私達に伝えると、ゆっくり中心にある小山へ手を伸ばし、そっと撫でました。
「──こやつは死んでいるが、死んではいない」
……すみません。仰っている意味が分かりません。
シャーロットさんが撫でている小山をよく見ると、ただの小山ではありませんでした。
パッと見ただけでは草花の生えた、ただの小山ですが、シャーロットさんが撫でている場所は草花が少なく、その姿が露になっています。
その姿は、大きな獣の亡骸です。
「……これは、大猪……?」
シモーネさんがいち早く気づき、シャーロットさんに声をかけました。
そう。小山に見えたのは大猪だったのです。
……これは、花葬……?
しかし、この亡骸はおかしいです。
辺りの草花の生え方からして、亡くなったのは随分と前のはず。なのにこの亡骸は白骨化していません。
草花が無ければ、ただ眠っているだけの様に見えます。
「そうじゃ。こやつの命はとうに尽きたが、その姿は朽ちることなくこの場にある。──この意味が分かるか?」
シャーロットさんは私達と向き合いながら、問いました。
正直、私には分かりません。
どんな生物にも終わりは訪れます。しかし、この大猪は終わりが訪れても、朽ちることなくこの場所に残ろうとしています。
それは何故か……
「……命が尽きても尚、妾を心配しての。こやつは、自分自身に呪いをかけたのじゃ。この身が朽ちぬ呪いを……。妾が死んでも、こいつはずっとこのままじゃ。土に還ることも出来ず、ただ黙って時の過ぎるのを待つだけの身じゃ。……馬鹿な奴なのじゃ……」
シャーロットさんはとても愛おしい目で相棒のフェルスさんを見つめておりました。
私達はなんと声をかけて良いのか分からず、じっと黙ってシャーロットさんの話に耳を傾けおりました。
──死というものは必ず訪れます。私にもこの様な感情が芽生えるでしょうか……
そんな重苦しい空気の中、ドドドドドドドッッ……と、何かがこちらに向かってくる足音がしました。
「シャーーロットーーーー!!!」
その何かはシャーロットさん目掛けて飛びかかり、見事顔面に激突しました。
シュタッと降り立ったのは──……うり坊?
「──何をするのじゃ!?」
「貴様、また恥ずかしい話を人にベラベラ喋ってやがったろ!!!」
シャーロットさんは、うり坊に激突された鼻の頭を抑えています。
──いや、それ以前に、うり坊は喋れる生き物でしたか?
シャーロットさんと、うり坊のやり取りを呆けて見ている私達に気づいたゴリさんが「お前ら、いい加減にしろ」と拳骨をお見舞いしておりました。
「なんだ貴様、ルッツじゃないか!!」
なんとゴリさん、喋れるうり坊とお知り合いですか!?
やはり、なにか通づる物があったんですかねぇ……
「──シャーロットもいい加減、その話は止めろ。聞いてるこっちが恥ずかしくなる」
「なぜじゃ?フェルスの妾に対する愛を語って何が悪いのじゃ?」
どうやらゴリさんは、全てをご存知のようですね。
それならば、このうり坊がなんなのか早く説明してください。
ゴリさんは私達の視線に気づいたらしく、うり坊の首根っこを掴み上げ、ゆっくり口を開きました。
「──……あぁ~、こいつはフェルスだ」
「はっ?」
「……フェルスは確かに命は尽きた。しかしな、魂はこの世に残っちまった」
なるほど、先程シャーロットさんが仰っていた「死んでいるが、死んでいない」と言う意味が分かりました。
「シャーロットは魂の姿では愛着が湧かんと、魂をうり坊の姿に変えたんだ。……因みに、先程の話は初めてここに来た奴に面白がって話す、シャーロットの戯言だ」
なんと!?何処から何処までが本当なんですか!?
先程のしんみりとした感情をどうしてくれるんです!?
ヤンさんなど怒りを通り越して、呆れてますよ。
「戯言では無い!!フェルスの愛は語り尽くせぬ!!」
シャーロットさんはフェルスさんの事をとても愛しているのですね。
「……俺はお前の愛が重い……」
フェルスさんが、項垂れながら申しておりました。
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