第62話お礼

あの後、ロンさんの弟さんは縄で縛られたままカリンに引きずられ、何処かへ行ってしまわれました。


後からカリンに聞いたところ、カリンのお父様。フルスト公爵にお願いして、マルタン商会に就職させたと聞きました。

マルタン商会は各国を回り、最高の品物を集めることで有名です。

一度国を出たらしばらく帰って来れません。


それにあそこの会頭は曲がったことが大嫌いな方ですので、ロンさんの弟さんも性格改善されて戻ってくる事でしょう。


それと、ロンさん達の小屋ウチは当然の如く、取り壊しが決まりました。

ロンさんはやはり寂しそうでしたが、その事をミレーさん夫婦に言うと「──なら、一緒に住むかい?」とミレーさんが間借りを提案てくれました。


因みに『マム』の二階がミレーさん夫婦の住居になっております。


ロンさんは突然の提案に戸惑っていましたが行くとこがないロンさんは、ミレーさん達のご好意に甘えることにした様です。


──ミレーさん達と一緒なら、寂しさもすぐ忘れる事でしょう。


「マリーさん、カリンさん、本当にありがとうございました」


本日ロンさんに呼ばれて、カリンも一緒に『マム』へとやって来ました。

席に着くなり、ロンさんが深々と頭を下げ感謝の言葉を口にしました。


今回、私は殆ど手を出しておりません。

縄で縛りあげただけです。お礼はカリンにお願いします。


「──それで、大したお礼では無いんですが……。これをどうぞ……」


遠慮がちに私達の前に置かれたのは、スコーンでした。

チョコが入った物やベリーが入った物までありますが、少々不格好です。

これは、どうやらロンさんお手製の様ですね。


暫く私とカリンはそのスコーンをジッと見つめていました。


「すみません!!やっぱり、お金の方が良かったですか!?こんなのじゃお礼にはなりませんよね……」


そう言うなり、ロンさんは持ってきたスコーンを片付けようとしましたが、それをカリンが素早く止めました。


「それ、私達の為に作ってくれたんじゃないの?何片付けようとしてるのよ。まだ手もつけてないわよ?」


「……カリンの言う通りですね。私達の報酬を勝手に持っていかれては困ります」


「えっ、でも……」と歯切れの悪いロンさんを尻目に、カリンと一緒にスコーンに手を伸ばし、一口。


「おや、これは──」


「美味しいわ!!!」


私がいい切る前に、カリンが声を上げました。


お世辞ではなく、本当に美味しいです。

形は悪いですが、バターの風味もいいですし、ベリーの甘酸っぱい酸味がいいアクセントになっていて、いくらでも食べれます。

その証拠に、カリンは既に一つ目のスコーン完食して、二個目に手を伸ばしています。


そんな私達の様子を見て、ロンさんはホッと胸を撫で下ろしておりました。

ロンさんはきっと、腕の良い料理人になることでしょう。


私はしみじみ思いながら、スコーンを口に運び続けました。


「そうそう、この間出かけた時に渡せなかったんだけど。──はい、これ、マリーのね」


カリンが二個目のスコーンを食べ終わり指をペロッと舐め、私の目の前に差し出してきたのは目元が隠れる仮面。


「これは?」


「今度の夜会で使う仮面よ。マリーのは私のとお揃いよ。これならお互い何処にいるか分かるでしょ?」


そうでした。弟さんの事で夜会の事自体忘れていましたが、今回の夜会は仮面が義務付けられているのでしたね。

どうやらカリンは、夜会慣れしていない私を心配してくた様です。


──なんて友達想いの方でしょう。


「安心して、マリー。貴方を虐げるような令嬢は、今後社交界に出れないようにするから」


カリンは私の手を取り、私を守る騎士ナイトのように言い切りました。

ですが、私はそこら辺のご令嬢如きに泣かされるような人間ではありませんよ?

寧ろ、やられたら倍で返して差し上げます。


「今回の夜会は私も楽しみにしてるのよ?友達マリーと一緒なんですもの」


カリンは少々照れくさそうに「ふふっ」と微笑んでおりました。


何でしょうか、この可愛らしい方は!!


思わずカリンを抱きしめてしまいました。

正直、夜会の日は姿をくらまそうと思っておりましたが、カリンの思いを無下には出来ません。


仕方ありません。カリンの為と思えば窮屈なドレスも我慢できます。

やってやりましょう。再び婚約者役を。



本日の報酬……ロンさんお手製スコーン(プレーン、チョコ、ベリー)


借金返済まで残り5億8千60万2100ピール

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