第61話説教

「……で、何しに来た?」


ロンさんの弟さんは、欠伸をしながら気だるそうにこちらを向き、聞いてきました。

そんな様子を見たカリンが、一歩前に出ました。


私は何があってもいいように、カリンのすぐ後ろで様子を伺います。


「何しに来たじゃないわよ!!あんた、自分の借金ぐらい自分で返しなさい!!ロンはもう、一切返さないから!!」


ビシッと言い切りました。

まあ、それで「はい。分かりました」と仰ってくれれば、こちらとしては手間が省けるのですが、世の中そう簡単には参りません。


「はぁ!?──……おい、この女が言ってる事は本当か?ロン?」


キッとロンさんを睨みつけました。

ロンさんはビクッと肩を震わせていたので、私の後ろへ追いやりました。


「おい!!どうなんだよ!!」


更に声を荒げ、ロンさんを脅してきました。


「……煩い、ハエですね……」


「はあ!?お前、今なんつった!?」


……心の声が漏れてしまいました。


こんな狭い家でこんなに大声上げていれば、いい加減煩くて耳が痛くなります。

少々黙って頂きたいんですが、私の言った一言で更にヒートアップしてしまいました。


「本当、吠えることは一人前なのねぇ。──……だっさい男」


「なんだと!!!!?」


カリンが更に煽ります。


「貴方、娼婦館に足を運んでるんですって?お金を出さないと女の子が相手してくれないのね。お可愛そうねぇ」


カリンが嘲笑いながら言い切ると、弟さんは

怒りなのか羞恥心なのか、顔がみるみる赤く染まっていきます。


流石、殿下の幼馴染です。相手の心を躊躇なく抉りますね。

でも、嫌いじゃないです。寧ろ、好感度爆上がりです。


「~~~っ!!お前ら、言わせておけばベラベラと!!!」


真っ赤な顔をした弟さんが、カリンに殴りかかって来ましたが、すぐにカリンの手を取り、私の後ろに下がらせました。


──ここからは、私が相手になりましょう。


「マリー、殺しちゃダメよ~!!」


後ろからカリンの呑気な声が聞こえてきました。


──そうは言っても、素人相手は力加減が難しいんですよ。


しかも、栄養が足りていなくてガリガリ。下手に力を込めれば骨が折れそうです。


弟さんは私の腹部目掛けて拳を打ち込んできましたが、それを私が平然と平手で受け止めると、何故か驚いた顔をされました。


──いや貴方、へなちょこですよ?

あまりの威力の無さに、驚きです。


よくもこれで襲いかかってきましたね。

これでは、カリンですら倒せますよ。


私は腕をひねり上げ、服の下に隠しておいた縄で縛り上げました。


「……なんで、縄を持ち歩いてるの?」


「いつ何時、何があるか分かりませんので、常に持ち歩いています」


カリンの問に答えると、カリンは「……あ、そうなの?」と、少々呆れた返事が返ってきました。


それはそうと、この縛り上げたものはどうしましょう?

ギャーギャー煩いんですが、息の根止めます?


「さて、貴方。離して欲しい?……それとも、ここで生涯を終える?」


「──んなの、離して欲しいに決まってんだろ!!!」


カリンが悪魔の微笑みで、弟さんに選択肢を与えました。

当然、離してくれと懇願しますよね。


そうはイカの金時計です。


「離してあげるには、幾つか条件があるんだけど?」


「はあ!?っざけん──!!!」


煩いので、縛り上げた縄を更に締め付けると「ゔっ」と声を上げ、黙りました。

更にカリンが続けます。


「1つ、自分の作った借金は自分で払う。2つ、完済するまで娼婦館、博打は禁止。3つ、兄離れしなさい。どう?出来る?」


「……そんなの……」


ようやく、自分の置かれた立場が分かりましたかね?

だいぶ大人しくなりました。

この条件を呑まなければ、一生縄は解けませんよ。


そんな私の後ろではロンさんが、オロオロと落ち着きなく動き回っています。


「──兄ちゃん!!助けてくれよ!!……俺、兄ちゃんと一緒にいたい!!」


ロンさんの姿を見た弟さんは、ロンさんに助けを求めました。

ロンさんは、急に声をかけられ驚いた様で動きが止まっています。

ここに来てようやく、ロンさんをお兄さんと呼びましたね。

まったく、都合のいい事です。


──……さて、ロンさんの答えは?


「……僕は、お前を甘やかし過ぎたんだ……。両親がいなくなってから、僕はお前が寂しくない様に頑張った。お前が娼婦館に行っているのも寂しいからだと、思っていた」


「そ、そうなんだ!!俺は寂しくて……」


「でも!!それじゃあ、お前の為にはならない……僕も、弟離れの時が来たんだ……」


ロンさんは頑張って言い切りました。

よく見るとロンさんは拳を力一杯握り締めているようで、血が滲んでいました。

唯一の家族を切り捨てるのですから、勇気がいったのでしょう。


──立派でしたよ。


心の中でロンさんを讃えました。


「──くそっ!!!くそっ!!!くそっ!!!全部お前らのせいだ!!これから俺はどうすればいいんだよ!!誰が俺の面倒をみてくれんだよ!!!俺の生活を返せ!!!」


この期に及んで自分では何もしないつもりですか?

根っからのクズですね。


カリンは大声を上げ、暴れている弟さんの肩をポンッと叩き、素敵な笑みを向けていました……。

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