第43話ルーナの見舞品

あの後、エルさんが呼んでくれた医師によると風邪との診断が下りました。

薬を飲んで、2、3日すれば良くなるだろうと仰ってましたので、治るまで休養となりました。


テレザ様は私の頭を冷やしたり、水を持って来てくれたりと

色々お世話をしてくれました。

一通り私の身の回りを整えると「また、合間を見て来るわ」と一言言われてから仕事へと戻って行きました。


──朝日が昇りきってもベッドの中にいるとは何とも贅沢な気分です。


そう思いながら瞼を閉じていると、バサバサバサ……と羽音が静まり返った部屋に響き渡りました。


──ルーナが朝食から戻ったみたいですね……。


ルーナは私が寝坊していると思ったのか、くちばしで私の頭を突き始めました。


──ルーナ、地味に痛いです……。


「……ルーナ。すみません、私は今風邪を引いた様で動けないのです」


私は重い瞼をゆっくり開け、ルーナに風邪を患っている事を伝えました。

まあ、伝えたところでグリフォンに風邪と言う単語は分からないと思いますが。


キュッ?


案の定首を傾げております。


私は風邪はどの様なものか、ルーナに教えました。

グリフォンは賢い幻獣ですので、ちゃんと理解してくれるはずです。


キュルキュルルル!!!


するとルーナは首を縦に振ると、再び外へと飛び立って行きました。


──伝わったのでしょうか?


ルーナの飛びった窓を見つめ、少々不安を抱えながらルーナの帰りを待つことにしました。



◇◇◇



……眠ってしまってましたか……


目が覚め、横のテーブルを見るとテレザ様が持ってきてくれたであろう、スープと果物が置いてありました。


まだ食欲はありませんが、少しでも口にしなければ体力が持ちません。

スープを一口、二口と口に運び飲み込みますが、その都度喉が焼けるように痛みます。


本当に風邪なのでしょうか?

風邪というものはこんなにも辛いものなのですか?


──あの医師、ヤブじゃありませんよね?


そんな事を思っていると……


バサバサバサ……

ンモーーーーーーー!!!


羽音と共に何かの鳴き声が聞こえます。

その羽音と鳴き声は、どうやらこちらに向かって来ています。

何事かと窓の外を見てみると、小さな体のルーナが、何倍もの大きさの牛を捕まえてこちらに運んでくるのが見えました。


「──ルー……ゴホッゴホッ……!!!」


叫ぼうとしましたが、喉がやられて声が出ませんでした。


そうこうしているうちに、ルーナは牛を私の部屋に入れようと窓に牛を打ち付けています。


「──る………だ……!!!」


止めようとしますが、声が出ないので伝わりません。

仕方なく、身振り手振りで伝えようとしますが、全く伝わりません。


──このままでは、窓が壊されてしまいます!!!


ガシャンッ!!!


……あぁ、始末書です……


私の思いは虚しく散りました。

窓は壊され、私の部屋にはとても立派な牛が一頭やって参りました。

ルーナはとてもご機嫌です。


「マリー!!何のお……と?──って、牛---!!?」


テレザ様より早くエルさんが駆けつけてくれました。


「……で……す」


エルさんに事の経緯を説明しました。


「うん。全然わかんない。──現場を見る限り、このグリフォンが連れてきたんでしょ?このグリフォンどうしたの?君の?」


身振り手振りで伝えようとしますが、エルさんは首を傾げるばかり。


やはり声が出ないと言うのは、不便ですね。

自分の伝えたいことが相手に全く伝わりません。

こんなにも、もどかしいとは思ってもみませんでした。


「ん~~、もしかして、このグリフォンってこの間の卵の中身?」


──ご名答!!


思いっきり首を縦に振りました。


「へぇ、あの卵グリフォンだったのか……」


エルさんはルーナを撫でながら、まじまじと見ています。


いや、それよりこの牛をどうにかしてください。


牛は知らない所へ連れてこられたので、部屋の中を暴れ回っています。


「……この牛はマリーの見舞品じゃないの?栄養付けろってことじゃない?」


キュルルル!!!


エルさんがそう推測すると、ルーナは嬉しそうに両翼を広げ鳴き声をあげました。

どうやらエルさんの推測が当たりのようです。


私の為に、この牛を捕まえてきてくれたのですね。

なんと優しい子でしょう……


「……でも、これ、多分酪農のヤツだよね?」


私がジーンとしていていると、エルさんが衝撃の事実を伝えてきました。


……確かに、牛が森の中にいるはずありません。──という事は、この牛はどなたかの家のモノ……

それはいけません!!他人の物を盗むなど!!そんな子に育てた覚えはありませんよ!!


「──まあ、こいつも悪気があったんじゃ無いんだし、この牛は僕がこいつと一緒に返しに行ってくるよ。なっ!!」


キュル……


ルーナは私の顔色を見て、良かれと思った事が、裏目に出てしまったと落ち込んでいましたが、エルさんが宥めて一緒に牛を返しに行ってくださいました。


──さて、この惨状をどう説明しましょう……


窓は壊され、部屋の中は牛が暴れ回ったせいでぐちゃぐちゃ。


「いやーーーー!!何なのこれは!!?マリー!!!何があったか説明なさい!!!」


いい案が浮かぶ前に、テレザ様にバレました。

声が出ないので何を言っても分かって貰えず、痛む頭を冷やしながらテレザ様のお説教を聞きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る