第42話風邪

「ちょっとマリー!?昨日休みだったんだって!?」


朝、仕事に行く準備をしていたら、エルさんが飛び込んできました。


あぁ、次の休みはエルさんにあげると約束していたんでした。

すみません。すっかり忘れておりました。


「……あれ?なんか顔赤くない?僕に見とれてる?」


……蹴り飛ばしますよ?


何故か今日は体がやたら重いのです。

頭もガンガンします。例えるなら、終始ゴリさんに拳骨をもらっているようです。


「えっ、ちょっと、大丈夫!?フラフラしてるけど!?」


「……平気です。これは、きっと飲み過ぎが原因です」


「……いや、違うと思うよ?」


昨日はゴリさんと飲みくらべをしたんです。

二人とも潰れる前にお酒が無くなり、引き分けとなりましたが、きっと自分で気付かぬうちに酔っ払っていたのでしょう。


酔っ払うとこんなにも頭が痛くなるんですね。これは初体験です。

皆さんが「二日酔いはしんどい」と仰る意味が分かりました。


心配しているエルさんを尻目に、私は仕事へと向かう為、部屋を出ようとしましたが……


「……あら?」


「──っと!!危ない!!って、君すごい熱だけど!!!??」


急に目が回り、その場に倒れ込みました。

床に倒れる前に、エルさんが受け止めてくれたので衝撃はありませんでした。

しかし、どうやら私は熱があるみたいです。


「ちょっと待って!!すぐベッドに運ぶから!!」


「……すみません。でも、仕事がありますので……」


エルさんが抱き抱えてベッドへ連れて行ってくれましたが、休んでいる場合ではありません。

今から仕事があるのです。


「君、馬鹿でしょ!?こんなフラフラな奴、使いモノにならないでしょ!?ぶっちゃけ邪魔!!」


エルさんにビシッと指を刺されて言われてしまいました。

……邪魔……邪魔……邪魔……。

私の一番嫌いな単語が頭の中を巡っています。


「えっ?なんか大人しくなったんだけど、大丈夫?」


「……ちょっと、精神的ダメージが大きかっただけです」


仕方ありません。皆様の邪魔になるのは本望ではありませんので、本日は大人しくお休みを頂きます。


「今医局に行って、医者呼んでくるから。──絶対、ベッドから出ないように!!分かった!?なんなら縄で縛り付けて行くけど!?」


流石に動きません。ですから早く医局に行って来てもらえますか?


エルさんは、私が目を瞑ってベッドで大人しくしている姿を確認すると、ようやく医局に向かったようで、バタンとドアが閉まる音がしました。



◇◇◇



ドタドタドタ……!!!


──誰かこちらに向かってきてますね……


バンッ!!!


「マリアンネ!!倒れたって本当なの!?」


──あぁ、面倒くさい方が現れましたね……


目を開けずとも、声で殿下だと判明しました。

エルさんは医局に行ったんではないんですか?


私のそんな思いも通じず、殿下の足音は私の方へ向かって来ます。


「……あら?ヤダ、眠ってる……」


目は瞑ってますが、起きています。

ですから、人の顔を触るのは止めて下さい。


「……本当に眠ってる様ね……。今ならキスしてもいいかしら……」


そう言われた瞬間、私は目をカッと開きました。


──寝込みを襲うのは卑怯者のやる事です!!


「……やっぱり起きてたんじゃない……」


知っててカマかけましたね?

卑怯者ではなく、底意地が悪かったです。


殿下はゆっくり私のベッドに腰掛け、私のおでこに手を当てました。

殿下の手は冷たくて心地よいです。


「……結構あるわね。辛くない?」


「……正直、風邪を引いた記憶があまりなく、どのぐらいで辛いと言うのか私には分からないのです」


私の記憶では風邪を引いた記憶があまり無いのです。

多分最後に引いたのは、6歳頃でしょうか?

なんせ、幼い頃から体を鍛えてましたので病気知らずなのです。


──健康には人一倍自信があったのですが……


殿下に頭を撫でられながら目を瞑っていると、バンッ!!と再びドアの開く音がしました。


「マリー!!大丈夫!?──って殿下!?」


次に部屋に入ってきたのはテレザ様ですね。


「……殿下、心配なのは分かりますが、病人にあまり近づかないでください。殿下に移ったら大変です」


テレザ様の言っていることは最もです。

私は風邪だと思っていますが、もし、違う病でしたら一大事です。


「大丈夫よ。マリアンネのものなら、なんでも貰うわ。人に移すと、早く治るって言うじゃない?」


いや、殿下に移すぐらいなら、このままでいいです。

気合と根性でどうにかします。


父様が言ってました。「病は気から」だと。


「もう!!ダメです!!今すぐ出て行ってください!!」


テレザ様が有無を言わさず殿下を部屋から追い出しました。

殿下は何度も抵抗していましたが、テレザ様の気迫に負け諦めたようでした。


ようやく部屋の中が静かになり、私はゆっくりと瞼を閉じました……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る