第39話話し相手とは?

「……何故、貴方がここに居るんです?」


本日私は侍女の仕事がお休みなので、便利屋の仕事を確認しに『マム』に来ているのですのが、何故か私の目の前には第二王子様。

しかも、ちゃんと周りに溶け込むよう平民の格好して……


「今日君休みだろ?丁度いいから君の事を知ろうと思ってね」


……勘弁してください。貴方がいたら便利屋の仕事が出来ないじゃないですか。王城で働いている者は、副業禁止なんですよ!?


そもそも何故私の休みを把握しているのか不思議なんですが?


「……ライナー様。わざわざここまで来て頂かなくても、城で十分だと思いますが?……しかも貴方、護衛はどうしました?」


ライナー様の周りを見渡しても、護衛の方らしき人はいません。

普通であれば、2,3人の護衛が付いているはずです。

もしかしてこの馬鹿王子、一人でここまで参ったとか申しませんよね?


「え?護衛?そんなもの要らないよね。邪魔だから置いてきた」


期待を裏切らない馬鹿でした。


この方はご自分の置かれた立場をご存知なのでしょうか?

いつ何処で命を狙われるか分かりませんよ!?

馬鹿でも一応肩書きは第二王子ですんですよ!?


呑気にこちらを笑顔で見てくるライナー様を見ていたら、頭が痛くなってきました。


「……おい。マリー、ちょっと……」


私を呼んだのは、ゴリさん。

柱の影から手招きしていますが、あれで隠れているつもりでしょうか?体が大きいので隠れきれていません。


私はライナー様を席に残し、ゴリさんの元へ。


「お呼びですか?」


「……お前、あれ第二王子だろ?なんでこんな所にいるんだよ」


それは私が聞きたいです。


とりあえず、ゴリさんに先程ライナー様との会話をお伝えました。

私の事を知りたいらしく、護衛もつけずにここまでやってきたと……

すると、ゴリさん。頭を抱え大きな溜息を吐きました。


「……マリー。お前、今日はライナー殿下の護衛兼付き人をやれ」


なんと!!馬鹿王子の子守りですか!?

せっかくの休みを子守りに費やすのですか!?


ゴリさんは「お前に会いに来たんだろ?責任持てや」と半ば投げやりです。


……殿下、話が違いますよ?これでは話し相手じゃありません。子守り役です。これは、早急に苦情を入れなければいけません。


「ねぇ、話は終わった?僕、待ちくたびれちゃったんだけど」


「うおっ!!!」


ひょこっと顔を出したライナー様に、ゴリさんが驚き飛び退きました。


「……あ、ああ、今、終わった所です」


そう言うなり、ゴリさんは私をライナー様の方へ押し出そうと背中を押してきました。


──ここで負ける訳にはいきません!!


一生懸命足を踏ん張り、その場から離れないようにしていましたが、ゴリさんに襟元を掴まれ抵抗虚しくライナー様の元へ……


「ふ~ん。君は僕が何者か分かってるんだ」


「ええ。ですから今日一日、マリーはライナー殿下の付き人に任命しました。ご自由にお使いください」


ゴリさん!?その言い方は色々と誤解を招きますよ!?


「ほら、マリー。町を案内してやれ。……多分、殿下は金を持っていないだろうから、これも持ってけ。小遣いだ」


そっと、ゴリさんから手渡されたのは、1000ピール……


「……あの、これ二人分ですか?」


「当たり前だ。マリーならこれで十分だろ?」


いくらなんでも少なすぎませんか?

子供じゃないんですよ?


……もしかしてゴリさん、飲みすぎて金欠ですね!?


だからあれ程、お給金の管理はしっかりしなさいと申してましたのに……。


「ほら、早くしろ。ライナー殿下がお待ちだ」


私は先に外へ出たライナー様の所まで、ゴリさんに引きずられて行きました。


……仕方ありません。大したモノは買えそうにありませんが、我慢しましょう。


「……くれぐれも、気をつけろよ。色んな意味で……」


ライナー様に引き渡される瞬間、ゴリさんがボソッと私に耳打ちしてきました。


ああ、私の貞操はライナー様を殴ってでも守りますから大丈夫です。


──と言うか、既に実行済みです。


「では、ライナー様。仕方ないので、本日一日お供させて頂きますが、くれぐれも迷子にならない様お願いします」


「今日の僕はお忍びなんだよ?敬称はなし!!僕の事はレナーって呼んでよ。僕もマリーって呼ぶから」


眩しい程の笑顔にウィンク付きで、ライナー様が申しておりますが、お忍びだろうと何だろうと王子は王子です。


「……それは無理──」


「はい!!決定!!じゃあ、行くよ!!」


有無を言わせぬ所はご兄弟ソックリですね……


こうして、ライナー様との町散策が始まりました。

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