第40話散策

町に出たものの……

ライナー様、格好は平民ですが持って生まれた容姿は隠しきれておらず、すれ違う女性の方々が顔を赤らめてライナー様を見ております。


……お忍びとは?

これは、バレるのも時間の問題じゃないでしょうか?


「ねぇ、マリー。あれは何?」


私の気持ちとは裏腹に、とても楽しそうに町を散策するライナー様。


ライナー様が指さした先には、串焼き屋台。

……お値段は220ピール……


「……欲しいんですか?」


「庶民の食べ物を食べとくのも勉強だろ!?」


言い訳がましく仰ってますが、要は食べたいんですね……

ライナー様は串焼きが相当気になるようで、焼いている所を覗き込んで見ています。


──まあ、一本ぐらいならいいでしょう。


「おじさん、一本ください」


「あいよ!!なんだマリーちゃん、いい男連れてデートかい?」


ここのおじさんは、『マム』の常連客です。


「……違いますよ。──あっ、これちょっと焼きすぎじゃないですか?これでは、正規の値段では売れませんよね?」


網に乗せられた串焼きを見れば、一本少々焦げたモノがありました。


「いやいや、参ったねぇ。マリーちゃんには負けるよ。……仕方ない、これなら半額でいいよ」


「それを頂きます!!」


おじさんは頭を掻きながら、仕方ないとばかりに値切ってくれました。


王子に焦げた串焼きを買うのはどうかと思いますが、所持金1000ピールなんです!!

縮衣節食です。


「はいよ。110ピールね」


「ありがとうございます」


私は少々焦げた串焼きを手に、ライナー様の元へ急ぎました。

しかし、ライナー様の姿がありません。


──おかしいですね……。あの方は「待て」も出来ないんですか?


差程時間は経っていないので、まだ近くにいると思い辺りを隈無く探していると、いました……

手にはアイスクリームと、ホットドッグを手にした満面の笑みのライナー様が……


──あの馬鹿王子、無銭飲食してますね!?


「ライナー様!!その手のモノはどうしたのです!?」


「これ?あそこの女の子に買ってもらったけど?」


振り向くと、顔を赤らめた女性の方が数人こちらに向かって手を振っております。

どうやら、あのお姉様方に買っていただいたようです。


──流石、好色獣……


まあ、何にせよ無銭飲食ではなくて良かったです。

一国の第二王子が無銭飲食して捕まったなど、笑い事じゃありません。

それこそ、前代未聞の大事件です。


「……それより、マリー。そんな大声で僕の名前呼ばないでくれる?レナーって呼んでって言ったよね?」


すみません。てきり無銭飲食かと思い少々焦りました。

確かに、第二王子の名前を大声で呼ぶのはまずかったですね。


「……それでは、レナーさんと呼ばせていただきます」


「まあ、いいや。それで。……それも頂戴」


ライナー様……もとい、レナーさんはアイスクリームを素早く完食し、私の買ってきた串焼きを食べ始めました。


正直、こんなに食べてお腹の方が心配になります。後で医局で胃薬を処方してもらいましょう。


「……ねぇ、これ大分焦げてない?」


「いえ、庶民の味はこういう物です。それを体感してください」


「……庶民はこんなもの食べてるのか……」


レナーさんは焦げた串焼きを見つめ、食べるのを躊躇している様ですが、こう言う物だと信じ込ませました。


やはり焦げたモノではまずかったですかね?


レナーさんは、文句を言いながらもちゃんと食べきりました。

食べ物を粗末にしない、その心意気は素晴らしいです。


食べ終わったレナーさんは、ある一点を見つめ動かなくりました。


──おや?ネジが止まりましたか?


見つめている方を見てみると、兄弟が仲良くジャレている所でした。


「……僕もさ、小さい頃は兄様に良く遊んでもらったんだ……。だけどさ成長するにつれて、兄様は政務ばかりで僕の事は何一つ気にとめてくれなくてさ……。兄様に僕の方を見てもらおうと、兄様の物を隠したりしたんだけど、すぐ見つかって怒られるだけ……」


兄弟の姿を見ながら、ポツリポツリと語って下さいました。


ふむ、これは拗らせてますね。

殿下はレナーさんを蔑ろになどしておりませんよ。

寧ろその逆です。殿下は貴方の事を思って、私に話し相手を頼んできました。

……貴方が変わってくれる事を願って。


「……要は、お兄ちゃんに構ってもらえなくなって拗ねているんですね?それでお兄ちゃんの気を引こうと、この間のような暴挙に出たと?」


「──ち、違う!!!」


おやおや、顔が沸騰したみたいに真っ赤ですよ?


「~~~ッ!!違うって言ってるだろ!!ほら、次行くぞ!!」


「くすっ」と思わず笑みが零れました。


なるほど、レナーさんは構ってちゃんでしたか。

可愛らしい一面もあったんですね。

殿下、これは私の仕事ではありません。貴方様がレナーさんとちゃんと向き合ってください。


未だに顔の筋肉が緩んでいる私は、真っ赤な顔のレナーさんに手を引かれ、再び町の中を歩き始めました。

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