第37話第二王子

「君が、マリアンネ?」


いつものように城の中を行き来していると、これまた見目麗しい殿方に呼び止められました。


この見た目といい、この装いは第二王子のライナー様ですね。

なるほど、確かに女性ウケの良さそうな顔立ちです。


「……ライナー様、何か御用でしょうか?」


「うん。兄様のお気に入りの子を見ておきたくてね」


「……はあ?」


お気に入りとは?

私はただの侍女であり、それ以上でもそれ以下でもありません。


しかし私の思いとは裏腹に、ライナー様は私を上から下まで舐めるように見て来ます。

正直、気持ち悪いです。王族の方じゃなければ蹴り飛ばしてます。


「ふ~ん。元貴族だけあって、顔も体型もいいね」


ニヤッと舌なめずりをしながら言われたので、ゾワッと鳥肌が立ちました。


──あっ、この方は生理的に無理な方です。


これは、早めに切り上げた方が良さそうです。


「ライナー様、申し訳ありません。私は仕事がありますので、これで失礼致します」


深々頭を下げて立ち去ろうとしましたが、行き場をライナー様に塞がれました。


「まあ、待ちなよ。──そんなに警戒しなくても取って食べたりしないよ。……多分ね」


おや、顔に出てしまいましたか?


──と言うか、最後の一言は聞き捨てなりません。

貞操の危機の場合、王族の方に手を出しても罪にはなりませんよね?……多分。


「用があるなら、簡潔にお願いできますか?」


「僕が迫っても靡かない子なんているんだねぇ。新鮮だよ」


相変わらずニコニコしながら仰ってますが、全く靡きません。

こんなので靡くのは、ナタリーさんぐらいです。


「……ねぇ、マリアンネ。僕のモノになってよ」


「は?」


何を仰っているんです?

ああ、夜の相手が欲しいんでしょうか?

残念ながら私は、娼婦ではありません。侍女です。

なんならナタリーさんを紹介致しますよ?

あの方なら喜んで相手してくれるはずです。


「僕さぁ、一度でいいから兄様が悔しがる姿見て見たいんだよねぇ。──ほら僕、政務とかよく分かんないじゃない?だから、兄様に好きな子が出来るまで待ってたんだよ。僕なら簡単に奪えるからね」


なるほど。仕事では、殿下に勝てる気がしない。まあ、当たり前です。貴方は仕事などした事が無いでしょう。

だから、殿下が好いた女性を奪おうと言う魂胆ですね。

しかも簡単に奪えると?……その自信は何処から生まれるのでしょうか?


──自信満々に仰ってますが、言ってることはクズの極ですからね。


「……あの、お言葉ですが、私は一介の侍女です。そんな者が殿下のお気に入りではありません」


ですので、早くこの場を立ち去る許可を下さい。今すぐに。


「君がそのつもりでも、兄様は違うと思うよ?……試してみようか?」


言うが早いかライナー様に壁まで追い詰められ、私の足の間に足を入れて来ました。

その勢いのままライナー様の手がスルッとスカートの中に入り込もうとしています。


──これはもうっても、自己防衛ですよね?


その勢いのまま、ライナー様の顔が近づいて来ました……


ゴンッ!!!


思いっきり、頭突きをお見舞いしてやりました。

これは、正当防衛ですからね。私は無罪です。


「~~~っつぅぅぅ」


ライナー様はその場にしゃがみこみ、おでこを抑えております。


こちらだって痛いんです!!

きっと今、おでこ真っ赤ですよ!?


「君!!僕が第二王子だって事分かってる!?こんな事してタダで済むと思わないでよ!!」


「……その第二王子が、こんな真っ昼間に城の廊下で侍女相手に盛ってるなんて、知られても宜しいんですか?──まったく、頭が足りない代わりに生殖機能だけは人一倍優れているんですから」


「んなっ!!」


本当の事を言われるとライナー様が顔を赤くして、少々ご立腹の様です。

赤くなるという事は、多少の自覚はあったようです。


「それに私を手篭めにするには1000万年早いです。まずは生殖器を鍛えるんではなく、頭脳と戦力を鍛えてから再度挑戦してください」


まあ、一生負ける気がしませんが……


「お、覚えとけよ!!」


「……負け犬の遠吠え……」


「お前っ!!」


あら、すみません。心の声が漏れてしまいました。


ライナー様は更に顔を赤くして、お怒りになっております。

まあ、こんな所で油を売っている場合では無いので、聞こえないふりをしつつ、この場を後にします。


「お前、絶対僕のモノにしてやるからな!!覚悟しとけよ!!」


はいはい。頑張って下さい。


去り際ライナー様に宣戦布告されましたが、果たしてどんな手を使ってくるのでしょうね。

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