第36話孵化

卵が私の元に来て数日が経ちましたが、未だに還る気配がありません。

私が撫でると、反応があるので死んでいるという事は無さそうですが……


「私に姿を見せるのが嫌なんですか?」


撫でながらそう呟けば、ピクピクッと動いて返事を返してくれます。


「ふふっ。恥ずかしがり屋ですか?」


思わず笑みが零れます。

最初は面倒だと思っていましたが、ここまで来ると愛情も少なからず出てきますね。


ふと窓の外を見ると、月が綺麗に光っていました。


今日は綺麗な満月ですね……

満月の夜は不思議な事が起こると昔から言われていますが、どうですかね。


ちょっと期待をしながら、私はベッドへと入り眠気が襲ってくるまで、読みかけの本を読むことにしました。




………パキッ……ペキッ……


しばらくすると、何かが割れる音が部屋に響き渡りました。


──もしや!?


すぐさまベッドから降りて卵を見ると、頂上の殻が割れています。


「頑張ってください!!もうすぐですよ!!」


卵に向かって力強く言うと、卵を一生懸命破るくちばしがみえました。


「もう少し……もう少しです!!」


パリンッ!!!


……キュ?


生まれました!!!

とても、とても可愛いグリフォンです!!


「貴方はグリフォンだったのですね」


生まれたばかりのグリフォンは、私を親だと思っているのか、一生懸命私の方に歩み寄り体を擦り付けてきました。


その姿の愛らしい事!!

この際親バカと言われても仕方ありませんが、うちの子が一番です!!


私はそっと手で撫でると、産毛の触り心地が最高でした。


「貴方に名前を付けてあげなくてはいけませんね」


……そうですね……。満月の夜に生まれて来たので……。


「──ルーナ……」


キュ?


「貴方はルーナです。満月の綺麗な夜に生まれてきた貴方にはピッタリです」


微笑みながらルーナを撫でると、とても嬉しそうに私の手に頭を擦り寄せて来ました。


──この世に、こんな愛らしい生き物がいたなんて……


この日、私は生まれたばかりのルーナと一緒に眠りにつきました。



◇◇◇



次の日、ペット同室の許可を得る為テレザ様の元を訪れました。


テレザ様はルーナを見るなり、フワフワの毛に顔をうずめて満足そうでした。

当然、許可は降り無事にルーナをペット……もとい、家族として迎えました。


「さて、グリフォンは何を食するのでしょうか?」


キュルル、キュルル


バサバサと羽を広げ、外へ飛んでいってしまいました。


「ルーナ!!!」


急いで後を追います。

ルーナは森を目指している様でした。


──お腹が空きすぎてしまったのでしょうか?


森に入ると、ルーナは更にスピードを上げました。

私は見失わない様にするのが精一杯です。


──どこまで行くのですか?


木々を飛び越えながらルーナを追いかけていきますが、なにぶん人と幻獣。

スピードの差は明らかです。徐々に引き離されて行きました。


──このままでは、見失ってしまいますね。……仕方ありません。


私はヘアピンを取り、スカートを破き糸を作りピンに括りつけルーナに向かって投げます。

上手いこと尻尾に付けれました。これで見失う事は無いでしょう。


ルーナは更に奥に飛んでいき、姿が見えなくなりました。

私は糸を手繰りながらルーナの元へ急ぎました。


姿が見えなくなって暫くすると、獣の鳴き声が聞こえました。


「ルーナ!!!」


慌ててルーナの元へ駆けつけると、そこには自分より大きな体の狼を食べているルーナの姿がありました。


……この狼はルーナが?


キュル


ルーナは自慢げな顔で、私に向かって一声鳴きました。

血だらけの顔ですが、とても可愛い顔です。


「ルーナは素晴らしいですね。こんな大きな獲物を捕まえれるんですね」


流石はグリフォンという所です。

ルーナは狼を綺麗に食べ尽くすと、満足したように私の肩に乗ってきました。


「ご馳走様ですね。城に戻りましょうか」


キュルル!!


それからルーナはお腹が空くと外へ飛んでいき、満足すると私の部屋に戻ってくるようになりました。


餌代が掛からなくて素晴らしい子です!!




新しい家族……ルーナ(グリフォン)

餌代……無料(森の獣達)


借金返済まで残り5億8千100万2100ピール

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