第33話犯人
犯人探しをエルさんに託した私は、侍女の仕事を黙々とこなしておりました。
仕事の合間に侍女仲間の方々に盗人に心当たりはないか、何を取られたのか聞いて周りました。
ある人は、小さい頃から大切にしていたぬいぐるみ。ある人は、旦那様から貰った結婚指輪。
変わり種ですと、手枷ですとか、鎖、拳銃、呪術式が書かれた本などです。
……皆さん、割と物騒な物を仕込んでいましたね。
しかし、こんなものを盗んで目的はなんでしょうか……
まあ、エルさんが戻って来ない事にはどうしようもありません。
大人しく待つことにしましょう……
◇◇◇
エルさんを待ち続けて、気づけば日も落ち始めて薄暗くなってまいりました。
──遅いです!!あの方は何しているんですか!?サボってたらタダじゃおきません!!
卵が心配で、焦りの色が濃くなりますがどうする事も出来ません。
こんな時、私は本当に無力ですね……
思わず拳をギュッと握りました。
「マリー、ごめん!!遅くなっちゃった!!」
「エルさん!!」
ようやく待っていた人が戻ってまりました。
その腕の中には大きな卵が、割れないように布に包まれてありました。
「──その卵!!」
「ああ、マリーの大切な物ってこれでしょ?ついでに取り返しといたよ」
なんと言うことでしょう……。エルさんは犯人を特定するだけではなく、卵まで取り返してくれたなんて……
……一瞬でもエルさんを疑った私が恥ずかしいです。
「……これです。ありがとうございます。本当に助かりました」
エルさんから卵を受け取ると、私はその卵を抱きしめ、その存在を確かめました。
「へぇ、マリーでもそんな顔するんだね。ちゃんと人らしい部分もあるって分かって安心したよ」
何か、大変失礼な事を言ってますが、卵を取り返してくれたので、今回は目を瞑ります。
……しかし、次はありませんよ。
「──それで、卵があると言うことは犯人が特定出来たと思って宜しいんでしょうか?」
「うん。僕にかかれば楽勝な依頼だったね」
その楽勝な依頼にどれだけ時間かけているんです?
私がどれだけ待ったと思っているんですか。
「──犯人は、侍女のリンダだよ」
ああ、リンダさん……
何故か、納得出来ました。
その理由は、このリンダさん。少々妄想癖と言うか、虚言癖があります。一言で言うと頭のおかしい方です。
その為、皆さんとのいざこざが絶えないのです。
しかし、最近は揉め事も無く平和でしたが……
「……これは、テレザ様に報告した方がよさそうですね」
私は一介の侍女ですので、侍女頭であるテレザ様に報告して、今後の対応を決めてもらいましょう。
「一応、殿下にも話しとくよ」
「お願いします」
殿下の耳にも入っていることですし、黙っている訳には行きませんからね。
とりあえず、これで盗人騒ぎは終息するでしょう。
「──で、エルさんはもうお帰りいただいて結構ですよ」
「酷いなぁ~、今回僕功労者じゃない?卵まで取り返してきたんだし、もうちょっと労わってよ~」
未だにのんびり私のベッドでゴロゴロしているエルさんに、早く帰れと言っているんですが、中々帰りません。
折角綺麗にしたベッドを汚さないでください。
私は、一日の終わりは綺麗なベッドで眠りたいんです。
「ああ~、マリーの匂いのするベッドいいなぁ。眠くなってきちゃった」
「……今すぐそこから立ち退いて下さい。さもなくば……」
スッと太腿に付けていた小刀を出し威嚇すると、渋々エルさんが両手を上げながら、ベッドから降りてきました。
「──分かった分かった。だからその物騒なもの仕舞ってくれる?……今日は大人しく帰るけど、僕との約束忘れないでね」
エルさんは私に向けてウィンクをすると、そのまま何処かに行ってしまいました。
はぁ~、仕方ありませんね。次の休みはエルさんの為に使いましょうか。
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