第34話その後

盗人リンダさんはあの後すぐにテレザ様の尋問があり、全てを告白しました。


何故、人の大切な物を取ったのかの問にリンダさんは「みんなの焦った顔が興奮したから」と、「私をバカにしていた奴が顔を真っ青にして、探している姿が堪らなくゾクゾクしてやみつきになってしまった」と、言われたようでテレザ様が盛大な溜息と共に教えてくれました。


取られた物は無事、皆さんの元に帰りました。


それでも、リンダさんのやった事は許されることではなく、解雇通告が下りました。


まあ、その方がリンダさんにとってもいい事だと思います。

ここにいれば、今回の事で更にリンダさんが孤立してしまいます。

中には暴言を吐く者もいるでしょう。


リンダさんはご両親の元に帰り、暫くは療養する事になるそうです。


「……これにて、一件落着ですか……」


目の前の卵を撫でながらポツリと言いうと、卵がピクっと動きました。


「……貴方も不安でしたね。もう、大丈夫ですよ」


微笑みながら卵を撫でました──



◇◇◇



「マリアンネ、貴方、エルを勝手に使ったわね」


ギクッ!!

……やはり勝手に影の方を使うのはまずかったですかね。


殿下に呼ばれて来てみれば、やはりと言うか、小言を言われる様な気はしていたんです。


「……申し訳ありません。今回は事が事でしたので、エルさんにお願いをさせていただきました」


私は素直に頭を下げ、殿下に謝ります。


「はぁ~、今回の事は私も対応が遅れたから、これ以上責めるつもりはないわ」


おや?案外すんなりご自身の非を認めましたね。


確かに、殿下が早急にエルさんをつかって犯人を突き止めていれば、私の休日がエルさんに消えることは無かったんです。


「でも、一言欲しかったわね。……貴方達二人で会ってること知らなかったわよ?」


何か、変な空気になってきましたね。

殿下は笑顔で話している筈なんですが、その笑みが恐ろしいです。


「……報告が遅れて申し訳ありません。てっきりエルさんが、お話しているものだと思い込んでおりました」


「そうね。普通であればエルが、報告する事だわ」


殿下がキッと天井を見上げました。

すると、ガタッと音が……


──今、エルさんの顔は真っ青でしょうね。


「この際、ハッキリ言っておくけど、私はマリアンネが他の男と二人きりで会うなんて嫌なの」


「はぁ……」


「本当は貴方を檻に入れて鎖に繋いでおきたいのを、グッと堪えているのよ!!感謝してちょうだい!!」


殿下はフンッと得意気にしておりますが、それは犯罪ですよ?

感謝するもなにも、やってはいけない事です。

そんな事、子供でも知っていますよ。


「……まあ、そんな事しても貴方は逃げるでしょうけど」


殿下は、諦めたように溜息混じりでテーブルに突っ伏してしまいました。


何ですか、このいじけ虫は……

私にどうしろと?


チラッと天井を見上げますが、当然エルさんは現れません。


──このまま放置……は、まずいですかね。


バンッ!!!


「ラインハルト!!!てめぇ、またサボってやがるな!!」


困り果てた時に、ドアが勢いよく開き宰相様のご子息で、今は殿下の従者であるオスカー様が飛び込んできました。


オスカー様は、いじけ虫になっている殿下を無理やり起こし

「休んでる暇があるなら、仕事しやがれ!!」と一喝しました。


流石は次期宰相様、殿下の扱いにも慣れていますね。


「……何よ、オスカー。私は今仕事する気分じゃないの」


「お前はいつもだろ!?いつ、その気になるんだ!?」


殿下とオスカー様が言い合いを始めてしまいましたが、これは日常茶飯事。通常運転です。


──と言うか、私はもう戻って宜しいでしょうか?


「マリーごめんな。またこいつに捕まってたのか?」


「いえ、オスカー様に謝っていただくことなど何一つありません」


オスカー様は私の頭を撫でながら、謝ってくれました。

オスカー様は、私の顔を見る度にこうして、頭を撫でてくれるのです。


なんでも、昔飼っていた猫にそっくりだと言われたのがきっかけでした。


「ちょっと!!なに勝手にマリアンネに触ってんのよ!!」


「──おかしな質問だな。何故マリーを触るのにお前の許可が必要になる?」


もっともな事を言われ「グッ」と殿下が黙りました。

オスカー様、素晴らしいです。


そうして殿下はオスカー様に叱られながら、ブツブツ言いながらも書類の山に手をつけ始めました。


──こんな方が時期国王で大丈夫なのでしょうか?


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