第32話適任者
さて、まずは犯人が誰か調べなければなりませんね。
これは、適任者を呼び出しましょうか。
「エルさん!!いらっしゃいますか!?エルさん!!」
私は天井に向かって言いました。
しかし、返事もなければ姿も現してきません。
ふむ……
「……エルさん。いるなら5秒以内に出てきてください。出て来てくれましたら、この間のキスの件は水に流しましょう。しかし、出てこなかった場合は、殿下に報告します。では参ります。い---ち……」
すると、天井がガタガタ音を立てました。
……やはりいましたね。
「に----い……さん、し、ご、アウトです」
「いや!!卑怯でしょ!!」
エルさんが、慌てて飛び出てきました。
卑怯とは失礼な。初めから素直に出てきてくれれば良かったのですよ?
「……で、何の用?」
エルさんは最高に機嫌が悪いようですが、そんなものに構っている暇はありません。
早くしなければ、卵が孵ってしまうかもしれません。
卵が割られてしまうかもしれません。
最悪の事態が頭を掠めます。
──割られていたら、犯人の命の保証は出来ません。
「エルさんにお願いがあります」
「へぇ、マリーのお願いか……。見返りは何?」
やはりタダでは動いてくれませんよね。
仕方ありません。これは必要経費です。
私はベッドの下から、厳重に保管されている箱を取り出しました。
「……おいくらで足りますか?出来れば特価でお願いしたいのですが……」
「お金なんて要らないよ」
なんと!!この方は煩わしいだけの方だと思っていたのですが、こんな善意な心も持ちあせていたのですね!!
私とした事が、見誤りました。
「そうだね……。マリーの一日を僕にくれればいいよ」
にこやかに微笑んでいますが、とんでもない事言ってます。
──先程のエルさんの評価を撤回します。
何故私の大切な一日をエルさんの為に使わなければならいのですか?
それならば、お金を支払った方がマシなんですが。
……しかし、ここで揉めている時間はありません。
これはもう、妥協しましょう。
「……分かりました」
「交渉成立だね。じゃ、僕の依頼を聞こうか?」
エルさんがにこやかに手を出してきたので、その手を嫌々、握り返しました。
「最近、使用人部屋に盗人が出没しているのはご存知ですか?」
「あ~、何か殿下の所にも苦情が来てたなぁ~」
上に苦情が行っているのなら、早急に対応してもらわなければ困ります。
あの王子は何やっているんですかね……
「……今しがた、私もやられました……」
「へぇ~、マリーに大切な物なんてあったの?」
この方は、一々失礼ですね。
私にも大切な物はあります。
ただ、思っていた物と違う物が盗られたと言うだけです。
言い返してやりたい所を、グッと堪えます。
「……ここに置いてあった、卵が盗まれました。エルさんには犯人が誰なのか調べて欲しいのです」
「卵って、君……。まあ、いいや。犯人を見つければいいんでしょ?」
「はい。お願いします」
大切な物が卵と聞いて、エルさんは驚いた様な、呆れた様な顔をしましたが、すぐに犯人を探しに行ってくれました。
──エルさんならば半日もあれば見つけてくれるでしょう。
ああ見えて優秀だと思っておりますので、私の期待を裏切らないでくださいよ?
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