第31話卵

朝目が覚めると、目の前に大きな卵があり驚きました。


──そう言えば、昨日母様から譲り受けたんでした。


まあ、当たり前ですが、昨日と何ら変わりありませんね。

いったい何の卵なんでしょう?

この大きさから言って、普通の鳥とは考えにくいです。


──大型の鳥類ですか……


パッと浮かんで来たのは、コカトリスです。


コカトリスとは、一言で言えば大型のニワトリですね。

しかし、あれはお世辞にも可愛いらしいとは言えません。


「君はどんな姿で生まれてくるんですか?」


そう言いながら、ツンと卵をつつくとピクっと卵が揺れたような気がしましたが……。まあ、気のせいでしょう。


そして、いつもの様に身支度を済ませ侍女の仕事開始です。


本日は生憎の雨なので、城の中の掃除です。

掃除の前に、腹ごしらえの為に食堂へと参ります。


一日の始まりは朝食からです。


「マリー!!!」


食堂へ行くと、ユタさん、ローゼさんが私の分の朝食まで確保していてくれました。


「ユタさん、ローゼさん、おはようございます。いつもありがとうございます」


ユタさんとローゼさんは毎朝こうして、私を待っていてくれるのです。

大変有難い事です。


「いいからいいから、さっ!!早く食べましょう!!」


ローゼさんの一声で、朝食を食べ始めました。


本日の朝食は、パンにスープ、それにスクランブルエッグとベーコン。朝食の定番ですね。


「……そう言えば、最近使用人部屋に盗人が出るらしいわよ……」


ユタさんが小声で物騒な話をし始めました。


「……知ってる知ってる。何か大切な物ばかり取られてるんでしょ?」


「……そうよ。この間取られたのは、レギーの大事にしていた毛糸のパンツよ。……あの子、それでお腹冷やして今日休みよ」


レギーさん、それは災難でしたね。

人が使い古した毛糸のパンツなど盗んでどうするつもりなんでしょうか?

人が大切にしている物を取り上げるのは、卑劣な行為ですね。


「……マリーも気をつけた方がいいわよ」


「私の大切なものは大事に閉まってあるので大丈夫です」


私の大切なもの。それはお給金。

そのお給金は、ベッドの下に大切に何重にも鎖をかけて厳重に保管してありますので、普通の方には持ち出せないかと思います。


「そう言う、自信過剰が危ないのよ」


「そうそう、ちゃんと確認してご覧なさい」


……そこまで言われると、不安になりますね。


私は早々に朝食を食べ終えると、自室へと急ぎました。


「……やられましたね……」


自室を開けるとすぐにお給金の確認です。

ベッドの下を覗くと、ちゃんと厳重に保管されておりました。

安心して、ベッドに腰掛けると……ありません。

先程までテーブルの上にあった卵が、影も形も無く消え去っていました。


朝食を食べに行っている間にやられましたか……


しかし、大切な物を盗むと聞いていたんですが?

いや、勿論卵も大切な物ですよ。命を預かっているんですから。


私の物に手を出したとなっては、動かない訳に行きませんね。

盗人捜索開始です。

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