第15話 勇者、不在【5/5】または「続・禁じられた魔法」
高位アンデッドの誕生に、もはや浄化教団の女司教は我慢がならなかった。
「オシラサマを出します!」
「は、え?」
困惑する大司祭!
無理もない。
オシラサマとは、白き浄化教団が信奉する、「大きな白い虫の神」のことだ。
それは幼虫で、もぞもぞしていて……。
大司祭が、大嫌いな種類の生き物だった。
困惑する大司祭を無視し、女司教は部下に命じる。
「大司祭様からの許可が下りました!」
「教団全体で、あの“腐れ”どもを殲滅するのです!」
アンデッドに対する呼び名はいくつかある。
なかでも“腐れ”は、熟練の対アンデッド殲滅士がよく使うスラングだ。
号令とともに、城壁から白いローブをまとった団員達が飛び出す。
団員達は、それぞれが洗練された手つきで術式を編む。
そしてこれは……
それも、相当高度な!
『
そして、アンデッド同士で同士討ちさせているのだ!
1体が倒されれば、また別のアンデッドを、それがやられればまた別のアンデッドを、という方法で切り替えながら、次々とアンデッド軍を倒していく!
もちろん、全体の数としてはそれほど影響はない。
しかし、頼もしい味方であることに変わりはない。
戦い方が、めちゃくちゃ不気味である、という点を除けば!
そしてさらに輪をかけて不気味な存在が、土中より
オシラサマだ!
白い、巨大な幼虫。
巨大な!
そう、とてつもなく巨大だ!!!
牛小屋を丸のみできる大きさだ!
「GO!!! オシラサマ、GO!!!!」
ノリノリの女司教が、巨大な幼虫に乗っている!
巨大な白い幼虫であるオシラサマが、次々とアンデッド兵士を飲み込んでいく!
黙々と!
まるで、死体を食べる機械だ!!!
そう。
このオシラサマは、死体を好んで食べる、白く巨大な幼虫なのだ。
「
オシラサマとは、超巨大な蛆虫のことだったのだ。
白き浄化教団とは、アンデッドを捕えて
「GO!!! オシラサマ!!!」
「愚かな
女司教はノリノリだ!
だが。
まだ、決定打が足りない。
『
チュルクも少しだが役に立っている!
だが、まったくもって歯が立たない。誰も死んでいないことが、むしろ奇跡だった。
意を決した大司祭は、急ぎ城内に戻る。
「あと少しばかり、足止めを!」
「奥の手を使いますぞ!」
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光と闇の魔法は、それぞれが相克の関係にある。
火の魔法を強めるために、相性がいい風の魔法を覚えることは有効である。
水の魔法を強めるために、相性がいい土の魔法を覚えることは有効である。
それと同様。
光の魔法の力を手っ取り早く高めるには、闇の魔法を覚えるのがよい。
不思議なもので、火の魔法と水の魔法を覚えると、火の魔法は弱まってしまうことが多い。
なぜなら、火の魔法は水の魔法と相性が悪いからである。
だが、光の魔法は。
一見すると、闇の魔法と相性が悪いような気がする。
しかし、実際は逆なのだ。
光の魔法と闇の魔法は、驚くほど相性がいいのである。
大司祭も、実は光の魔法だけではなく、闇の魔法もかなり高度なものを使えるのだ。
「これだけは……これだけは、やりたくありませんでしたなぁ」
大司祭は、霊安室の前にいる。
その手には、黒い錫杖が握られていた。
かつて、インノケンティウス8世がファラーマルズを亡き者にするため、聖遺物で武装した暗殺者をけしかけたことがある。
当然、暗殺者は全員返り討ちにあった。
そして、彼らが所持していた聖遺物は、ファラーマルズの魔素を受け、ある物は無力化され、またある物は魔道具になり果てていた。
病を治しケガを治療するユニコーンの角は、水を汚染し毒を生み出す角に。
光の輪を放つ聖杖は、邪悪な魔素を溜め込む魔杖に。
そしてこれは、そのときに生まれた「邪悪な魔素を溜め込む魔杖」だ。
大司祭は、此度の戦場で、何度も目にした魔法儀式を発動させた……。
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戦力は、拮抗しているとは言い難かった。
インノケンティウス12世お抱えの「円卓の騎士」たちも、良い働きをしている。
まさしく一騎当千の猛者だ。
だが、アンデッド軍相手には分が悪い。
シモン・ペテロ、ブッタデウス、
すでに、この戦場で作り出された
このままでは、どんどんアンデッド災害が拡大しかねない!
なにかが、なにかのきっかけが起こってしまうと、一気に戦線は崩壊するだろう。
「GO!!!! オシラサマ!!!! ……え? お腹いっぱい?」
なんということであろうか!
アンデッドをもりもり食べて浄化していた、オシラサマこと
モゾモゾと脱皮準備に入り、さなぎ化しようとしている。
これが孵化すれば、まだ希望はあるかもしれない。
だが、その前に戦線は崩壊するだろう!
陥落した王都の目の前で
すわ、もう何もかもおしまいか!?
そう思われたとき。
「なんとか、“奥の手”が間に合いましたな」
大司祭が、帰ってきた。
とんでもない助っ人を引き連れて。
「グウゥウ……」
大司祭の右手には、黒い魔杖。
その横には!
これは!?
ファラーマルズか!?
まさか、今は王国不在のはずの彼が、帰ってきたとでもいうのか!?
だとしたら安泰だ!
しかし、そうではない。
これは、もっと恐ろしいものだ!
この禍々しさ、この屍気、それを我々は知っている!
これは、『
「共和国でファラーマルズ殿が自分の分身を囮に使っていた頃にね」
「王国内でファラーマルズ殿は、分身を情報伝達のために残しておいたのですよ」
「そして、本体からの支配が切れれば、分身体は骸になる」
「我々も、ね」
「ファラーマルズ殿のご遺体を、持っていた、というわけですぞ」
大司祭が、黒い魔杖を掲げる。
「ゆけ!」
『
我々は、夢でも見ているのだろうか。
少なくとも、先ほどまで『
レベルが違いすぎる。
一撃一撃が、どんな戦士や勇士にとっても致命の一撃。
で、ありながらも、流れるように連続で繰り出され、フェイントも混ざっている。
魔法もすさまじい速さで練られ、編み出されていく。
反物質でできた槍。
触れた物を消滅させる粒。
消えることがない黒き焔。
部外者が、助力できるような次元の戦いではなかった。
「我々は、できることを!」
レオスの号令で、一同が我に返る。
周囲には、まだアンデッドはいるのだ。
掃討戦が必要だ。
「グウウウ!!! やるのう!!! 儂!!!」
「だが、術者に操られているような儂では、儂には勝てんぞう!!!」
『
また、自我をもって戦っている。
いくらボロボロとはいえ、負ける要素はなかった。
せっかく大司祭が決死の覚悟で生み出した『
「これで終いじゃ、儂!」
『
「グハハハハ!!!!」
「どうだ!!!!」
「これで、儂を阻む者は誰もおらぬわ!!!!」
勝ち誇る『
「いやはや。ファラーマルズ殿の顔をしたご遺体。処分に困っておりましてな」
「ちょうどよかったですぞ」
「一応、これは、お礼を申し上げたほうが誠実でしょうかねぇ?」
大司祭は、絶望はおろか、まったく困った様子もない。
「はぁーーっ、こんな権謀術数みたいな、絡め手みたいなことばっかり慣れていきますぞ」
「女神様に申し訳が立ちませんなぁ」
大司祭は黒い魔杖を掲げ、『
「むむむっ!!! この儂を操ろうというか」
「見上げた心意気、だがそれは蛮勇にすぎぬわ!」
しかし、そこへ白き浄化教団の団員たちが駆けつける。
彼ら彼女らも、強力な
「ウグオオオ!!! だが、まだ、まだだ!」
そこへ、周囲のアンデッドたちを殲滅したレオスたちが駆けつける!
「今だ! やつは弱っているぞ!」
それまでは、少なくとも互角に抑えていた4人(と1人)が帰ってきたのだ!
動きが悪くなった『
明らかに弱っている!
『
連戦の疲れが出たのだ!!!
「まだ……ま、まだだ!!!」
それでもあきらめない!!
「いいえ。時がきましたわ」
「もう終わりです」
浄化教団の女司教もやってきた!
そして、ひと際強力な
もはや彼は、身動き一つできぬ!
そしてなにより、女司教が乗ってきたのは……。
「孵化、してしまいましたか……。
がっくりと肩を落とす大司祭。
別の問題が浮上してしまった。
「ええ、そうです。これほどの消化酵素と食欲をもった巨大蠅でなければ、この
「お、おの……れ……」
ついに、『
ここに、ユウマが計画し、魔王ズハインが実行した、第二次王都襲撃計画はついに終焉を迎えたのだった。
王都側の勝利によって。
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