第15話 勇者、不在【4/5】または「続・禁じられた魔法」

「いたぞ! 屍気をまとっているハイエルフだ!」

 竜騎士ドラグーンのチュルクが見つける。


「光の柱よ! 我が敵を焼き尽くせ!」

 飛行術をもつシモン・ペテロも飛行部隊に合流し、上空から速やかに屍操術士ネクロマンサーを排除する。


 地上では、文字通り不死身の肉体をもつブッタデウスが半ば囮となり、『不死者アンデッド』ファラーマルズを引きつける。


 魔王ズハインも、実は相当の実力者だ。

 だが、シモン・ペテロが呼び出した3人(3匹?)の鶏人けいじんを倒せずにいる。


 3人の鶏人けいじんはいずれもいわおのように頑健な肉体をもち、死を恐れぬ勇猛さと、高位の聖遺物で武装している。

 なにより、傷つき倒れると……。


「くっ、鶏人けいじんがやられたか」

「鶏よ、鶏よ。今こそ贖罪せよ」

ペトロスのごとき体をもって、三度みたびペテロに赦されるべし」

 何度でも、シモン・ペテロが復活させるのだ!



「ええい、面倒な!」

 しかし、やはり魔王と呼ばれるだけあって魔王ズハインも強力である!

 これら、聖遺物で武装した屈強な鶏人けいじん3人と渡り合うなど、並大抵の戦士では不可能なことだ。むしろこの状況は、「なかなか魔王ズハインを倒しきれない」と見るべきなのだ!




「これでええぇ!!! 3人目えぇ!!!」

 チュルクが、ハイエルフを切り倒す。


「チュルク! その人はハズレですよ。屍操術士ネクロマンサーではありません」

「正確には、“これで”3人目、です」

 極めて強力なウィンドカッターが、ハイエルフの屍操術士ネクロマンサーを切り刻む。

 ホウセンの風魔法だ。


「ああ。そして、これで……!!!」

 レオスが、トリッキーな曲芸飛行からの見事な剣術で、ハイエルフの屍操術士ネクロマンサーを無力化する。

「……4人目!!!」


 大司祭は、ソワソワしている。

 そろそろ、屍操術士ネクロマンサーを倒しきる頃ではないだろうか?

 屍操術士ネクロマンサーを倒しきったら、魔力供給が途絶えたアンデッドは一時暴走し、魔力切れと共に骸に戻る。

 だが、嫌な予感がする。



「そろそろ。頃合い。か」



 戦場で、初めて響き渡った。

 冷徹で、冷え切った、地獄の底から響くような声。


 ファラーマルズの声色だ。

不死者アンデッド』ファラーマルズが、初めて声を発した。



 その刹那!


「うぐっ!!!!」


「ぐわーーーーっ」


「ご、ゴフッ……」



 隠れていたハイエルフの屍操術士ネクロマンサーが3人、同時に倒れ、そして見る間に弱っていき……そして、すぐに死んだ。



不死者アンデッド』ファラーマルズは、それまで引きつけられていると見せかけていたブッタデウスを無視し、魔王ズハインに向かう。


「雑兵にしては、よくやった。褒めてつかわす」

を生み出した褒美をくれてやろう」


 魔王ズハインは、困惑している。

「ば、ばかな。なぜ、自我をもつ? なぜ」

「なぜ、貴様は、そんなにも、膨大な魔力を!?」


 魔王ズハインに襲い掛かる『不死者アンデッド』ファラーマルズ。

 二手、三手と組み合うが、まるで話にならない。

 魔王ズハインは素手で首を切り落とされた。

 ズハインの首級を掲げると、まるでリンゴの皮をむくかのように、ズハインの顔の皮をはがした。

 頭蓋骨が露になる。


「まだ死ぬなよ? いや、死んでもよいが、意識を失うなよ」

不死者アンデッド』ファラーマルズは、自らの胸に左手を差し込むと、止まっている心臓をえぐり出し、捨てた。


 そしてその位置に、ズハインの頭蓋骨を差し込んだ。


「そなたには、褒美をやろう」

「儂の魔力炉となる栄誉をくれてやる」


不死者アンデッド』ファラーマルズが周囲に手をかざす。


 すると、もはや彼の胸部に押し込められてあまり確認できないが、ズハインの頭蓋骨の両目が、鈍く緑色に輝いていく。

 魔力を生成し、提供している様子だ。


「あぁぁ」

「ぐぉおおおお」

「うううぐぐぐ」

「ごっごっ」


 それぞれが思い思いのうめき声を上げながら……戦場に散っていった者たちが、再び立ち上がった。

 王国の守備隊も。

 悪魔も、魔族も。

 ハイエルフも。


不死者アンデッド』ファラーマルズは、高らかに宣言した。

「グワァーーッハッハッハ!!!」

「見よ!!! 我が不死者の軍勢を!!!!!」

「儂こそが、不死者でありながら不死者を操る者!」

「そなたらの言葉では、不死屍操術士リッチと呼ぶのであろう?」


 いや!

 これはもはや、高位不死屍操術士アーク・リッチだ!


 戦場で、何百、もっと多くの死体が立ち上がる!!!



不死者アンデッド』ファラーマルズは、屍操術ネクロマンシーで操られていたものの、術者が死ぬ度に少しずつ自我をもち、ついには完全なる自己を確立して、アンデッドの上位存在に転化したのだ!


 そして、自分とつながっていた3人の屍操術士ネクロマンサーの脳内から直接、その場で屍操術ネクロマンシーを学び取ったのであろう!!!


 しかし、いかな高位不死屍操術士アーク・リッチとて、これだけの数のアンデッドを一気に復活させ操ることは不可能ではなかろうか!?


 そうではない!

不死者アンデッド』ファラーマルズは、まずは先ほどまで自分を操っていたハイエルフの屍操術士ネクロマンサーたちを復活させ、操ったのだ!

 そして、彼らが行使する術も通じて、この戦場で命を落とした全軍を復活させ、操っているのだ!

 ハイエルフの屍操術士ネクロマンサーは7人。

 それだけでは足りぬ。

 王国守備隊などの死者のなかで、多少は魔法に心得がある者を復活させ、その者に“この場で屍操術ネクロマンシーを教えて”使わせているのだ。


 こうして、簡易的に自分の支配下にある屍操術士ネクロマンサーを20人ほど作成し、彼らに甦った全軍の制御を任せているのだ。

 とりあえず、手当たり次第に周囲の死者を復活させ、復活したアンデッドはすぐさま自分の配下の屍操術士ネクロマンサーが支配下に置く。

 必要となる膨大な魔力は、先ほど殺し、自らの体内に取り込んだ元魔王ズハインの“しゃれこうべ”を魔力炉として使って賄う。



「グワァーーッハッハッハ!!!」

「儂は、しょせんは分身だがな!」

「力をつければ、いずれは本体をも倒しきり、我が支配下に置いてくれようぞ!!!!」

「なにせ、死は平等だ!」

「すぐに死者の世界は儂のものになり、さすれば自ずと、生者の世界も儂のものになるであろう!!!」


 なんということか!

高位不死屍操術士アーク・リッチ』ファラーマルズが、新たな魔王として降臨してしまった!



 苦虫を噛み潰すような表情をしているのは、浄化教団の女司教だ。


「やはり、やはり……こうなりましたか!」

「やっぱり! もう! これだけはイヤだったのに!」

「私たちは、何百年もアンデッドを浄化してきました」

「高位のアンデッドを作ると、大抵が術者を殺して暴走し、高位不死屍操術士アーク・リッチになってアンデッド災害を引き起こすんです!」

「いつもいつもいつも! なんっっっで屍操術ネクロマンシーに頼るバカどもは、おんなじ失敗をして死ぬんですか!」

「しかもそのあと、自分も不死者にされて操られるんですか!」

「もう! いい! 私は怒りました!」


「オシラサマを出します!」

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